見出し画像

西洋医学と東洋医学の相互補完関係を

 ごく最近まで、インフルエンザの病原体であるウイルスの増殖を抑える薬は存在しなかった。にもかかわらず、二次感染を予防するためだと称して、細菌を殺傷する抗生物質が多用された。その結果、抗生物質に抵抗力を持つ病原体が出現し、治療のむつかしい新しい感染症を増加させた。

 外科手術にも問題は多い。
 「ガンは摘出した。しかし、患者は死んだ」
 こんな、笑うに笑えない悲劇が起こることもある。

 さらに多様なストレスが引き起こす病気がある。うつをはじめとする心の病気、多忙や人間関係の悪化がもたらす心身症などである。

 そのすべてが漢方で治癒するわけではない。
 しかし、たえず変化し続ける人間の身体の状態を好ましい方向に誘導する。そうして漢方は、病人の元気を巧みに回復させるよう試みる。

 たとえば葛根湯という漢方薬がある。
 「ああ風邪薬か」
 と決めつけてはいけない。

 それは本来「風邪という病気」を治す薬ではない。
 そうではなくて、
 「①頑健な体質の人が、②悪寒と発熱、③首筋、肩などの凝り、関節や筋肉の痛みを感じ、しかし④汗が出ない」
 ときに処方する薬なのだ。同じ風邪でも「汗が出やすい」場合は、処方が桂枝湯に変わる。

 甘麦大棗湯という処方も面白い。
 素材は甘草、大麦、大棗だけだ。単体に分ければ「薬」といえるような成分は含まれていない。それが不思議なことに、女性のヒステリー症状や子供の疳の虫に著効を示す場合がある。しかし、大人の男には何の効果もない。

 ここで思い出すべきは、以前に紹介した
 「今日は私の手元に肝臓を置いて帰りなさい」
 という鍼灸師の言葉だ。
 それは、肝臓だけを全身から切り離して病気を治すことなどできないという意味をはらんでいる。

 それに似て、甘草と大麦と大棗を分け、それぞれの薬効を問い直すこともできない。
 それらが渾然一体となり、患者の口に「甘い良薬」となって患者の心と体を励まし、元気を呼び戻す。個別の臓器と全身、薬の成分、心と体……漢方は、これらを「二にして一」だと捉えるのだ。

 たしかに「分ける」ことで「分かる」ことは多い。
 しかし「分けてしまう」と「分からなくなる」ことも少なくない。漢方は、そんな見方や考え方を、その内に秘めている。

 そんな漢方のもとである中国医学への再評価は、中国でも20世紀なかば以降、非常に盛んになってきた。

 たしかに現代の世界ではグローバリズムばかりが話題にのぼせられる。しかし、医療には多様性があっていい。
 現代の医療には、西洋医学と漢方など東洋医学が補完しあい、より適切な治療を施すことが求められているのだ。

 西洋医学と手をとりあって東洋医学の活躍の場を広げる。そんな動きには大いに期待したいものだと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?