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「異常の歴史」という話

まえがき:狂気と排除

 「気ちがい」「狂人」「異常者」。こういった言葉はあまりポジティブな文脈では使われることがなかったと思います。どちらかというと「あいつは気ちがい(狂人、異常者)だから関わらない方がいい」といったようにネガティブな文脈で使われることの方が多いと思います。狂人は社会から危険視され排除される。

 では、社会から排除される「狂人」あるいは「狂気」とはどのような存在なのでしょうか。本稿では、「狂気」について考えていこうと思います。


第Ⅰ章:狂気と健康の歴史

 私たちの社会では、精神異常者や狂人は病院に隔離され、治療されます。隔離を正当化する論理を哲学者の小泉義之は次のように説明しています。

 発病の契機となる出来事は、家族・学校・職場で、一般的には地域・社会で起こるのであるから、発症や発病をおさえるには、その最大の原因である場所から遠ざかるのが一番である。地域・社会から脱出させること、地域・社会から排除することに治療効果がある。言ってみれば、転地療法である。

(小泉義之 『あたらしい狂気の歴史』)

 精神に異常が生じる原因は、一般的に社会(家族、学校、職場)にあると考えられるわけですから、その社会から異常者(狂人)を隔離すれば、精神の異常性を取り除けると考えられるわけです。

 健康的ではない(正常ではない)、精神の異常性を取り除こうとすることは一見、道徳的で、素晴らしい行いであるかのように見えるかもしれません。

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