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さんびきのくま

いまの会社に入社してすぐのこと。
私は、カッターで絵本の校正紙を切っていた。
すると、あることに気がついた。本のサイズ的に、画面の端に描かれた小さなくまが切り落とされて、入らないのだ。

くまと言っても、主人公の男の子の、オーバーオールの後ろについたアップリケ。本当に小さいくまなのだけど、切れてしまうのがかわいそうで、上司に相談した。

結論から言うと、デザイナーさんに相談して、絵の位置を動かし、くまは切られず本の中に入ることになった。

普通なら、上司に「くまが切られていなくなってしまうんです…」なんてこと相談したら、「はあ?」だと思う。
なに言ってるんだ?ってなる。

でも、この時笑って「あら〜ほんとだ(笑)気がついてくれてありがとう」と言われた。ほっとして、うれしかった。

私は日常で「あ、くまが…」みたいなことをしょっちゅう思う人間だけど、毎回口にはしない。みんなそんなこと思わないだろうなと思って、心の中にしまっておく。

けれど、ここではそういうことと、ド真剣に向き合って、なにかあれば言ってもいいんだって思うと、うれしかった。ここにいれば、ちゃんと意味のある感情なんだと思ってほっとした。

* * *

3〜4歳の頃、私はひよこの絵がついたスプーンとフォークのセットを使っていた。
とても気に入っていた。
でも毎日洗うから、ひよこの目の塗装が少しずつ薄くなっていって、それが少しずつ悲しかった。

ある日の幼稚園でのお昼ごはん。隣の子がスープをこぼして、私のひよこのフォークセットにかかった。

その時、ものすごく悲しくて泣いてしまった。スープをかけられて悲しかったのではなくって、ひよこの目が今度こそ消えちゃうと思ってショックで悲しかったのだけど。

先生にも隣の子にも上手に説明できなかった。
おうちに帰ってから、母にだけちゃんと言えたのを覚えている。
母は、「なーん、そんなこと(笑)」と言って油性ペンでひよこの目を濃くしてくれた。

* * *

おふろで引っ越しのことを考えていた。どの家具を持っていこうかなと考えていた時、はたとぬいぐるみはどうするの?と気がついた。

私が連れていかなかったら処分される。じゃあどうする?連れていけない分は、火葬?いやいや、無理でしょう。目がついてるものを捨てたり燃やしたりするなんて。

恋人から電話がかかってきた。つい、ぬいぐるみの話をしてしまった。
「ねぇ新しいおうちに、ぬいぐるみは何匹まで連れてっていい?3匹は?平気?」

私はどうせなら、モデルルームみたいな部屋にしたかったし、それにはぬいぐるみは必要なかったのだけど。

捨てることができないから連れて行くしかない。今はまだベッドにいるくま(テディベア)とトラとちっちゃいいぬ。

恋人はあたりまえのように「3匹?いいよ〜。名前はなんていうの?」と聞いてきて、ほっとした。
私が「別にぬいぐるみが超好きとか、ないと生きていけないとかの人ではないんだけど…」とことわりを入れると「別にそういうのはいいから(笑)」と笑われた。


大事にし切れるか不安なので、自分でぬいぐるみを買ったことはない。買えない。(ただ、はたちの誕生日にテディベアもらったのはうれしかったな〜)


* * *

こういう心のやわやわなところを、そのままなんとも思わず受け入れてくれる人がいるの、なんて救われることなんだろう。

くまくま。
ドラマ高嶺の花に出てくる"ぷーさん"を見ながら、そんなことを考えたのでした。

おしまい。

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急に雨が降ってきた時の、傘を買うお金にします。 もうちょっとがんばらなきゃいけない日の、ココア代にします。