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おひさまのなみだ


朝おきると、みんな外に出て「おはよう」を言い合います。
外に出ると見えるのは、サンサンと光るおひさまでしょうか?
それともシトシト、雨もよう?
外に出ると、みんなが天気を気にしているようです。
けれどまわりをみわたすのではなく、すぐ上を見てみてください。
ほんとうはみんな、1人ひとつずつ、あたまの上に空があります。


たろうくんのあたまの上には、今日はくもり空。
昨日はおひさまが照らしていたから、今日はちょっぴり落ちこんでいるみたい。
ゆみちゃんのあたまの上はしんしんと雪がふっています。
今日のゆみちゃんは静かなので、きっと少しさびしい気持ちなのでしょう。

そしてかなちゃんのあたまの上は、ずーっと雨もよう。

みんな毎日天気がかわるのに、
かなちゃんはずーっと雨がふっていて、そしてかなしい気持ちが心のなかにありました。
たのしいことをしていても、
雨がよわくなるだけで、しばらくするとまた雨がふるのです。

ぶらんこにのって、たかくたかく飛べても
おりて歩きはじめると雨がふりました。

おいしいお菓子をみんなと食べても、
1人になったらまた雨がふりました。

たのしみにしていた遠足の日ですら、
家に帰って寝るころに、また雨がふりはじめました。

かなちゃんは、自分だけ損をしているみたいで、いやな気持ちです。
それに、ずーっと雨だってことがみんなに知られたら、
まわりにも「かなちゃんはずっとかなしいんだね」って思われるのを気にしていました。

かなちゃんは、みんなにそう思われないように、
ずっとニコニコしていることを決めました。
そうすればきっと「かなちゃんの空はずっと雨だけど、かなちゃんはいつもたのしそうだね」って思ってもらえるからです。
そのおかげで、みんながかなちゃんの話をするときは、そろって言いました。

「かなちゃんの天気、こわれちゃったのかな?だって、かなちゃんの笑顔はいつもおひさまだもんね」

だけどかなちゃんには、ずっとにくらしいライバルがいました。
こうたくんです。
こうたくんは、あたまの上がいっつもおひさま。
それ以外の天気を、だれも見たことがありません。
それに、こうたくんはいつもとってもたのしそうで、
まわりにも、ともだちがたくさんいました。

「同じように楽しくしたって、こうたくんには絶対にかなわない。」
かなちゃんはこうたくんのことを見るとくやしくて、
つい、遠くに走ってしまいました。
それなのにこうたくんは、そんなかなちゃんを気にすることなく、
かなちゃんに声をかけるのです。

「かなちゃん、いっしょにあそぼうよ」

かなちゃんは首を横にふって、ことわります。
こうたくんのとなりにいると、かなちゃんの雨もようが
ますます目立ってしまうと思ったからです。

「かなちゃんは、ボクのことがきらいなの?」

こうたくんはかなちゃんに聞きました。
かなちゃんはまた、首を横にふりました。

「こうたくんがいっつもおひさまなの、ずるいから。
だからいっしょにあそべないの」

こうたくんは、かなちゃんの横に立って言いました。

「かなちゃんは、おひさまが泣いているのを見たことあるかい?」

おひさまはいつもまぶしくて、ごきげんで、笑っています。
そんなところ、想像もつきません。

「ボクは見たことがあるよ。
それにね、ぼくは毎日おひさまだけど、
ぼくにもかなしい気持ちや、さびしい気持ちもあるんだよ」

そのとき、かなちゃんは気が付きました。
かなちゃんにたのしい瞬間があるように、
こうたくんがかなしいのに、だれにも気づいてもらえないことがあるということを。

「それから、かなちゃんは、すごくみんなのことを考えられるよね?
かなちゃんが、みんなよりもかなしい気持ちを知っているからなんだよ」

かなちゃんは、こうたくんの手をつなぎました。

「ごめんねこうたくん。いっしょにあそぼう」

するとおどろくことに、2人のあいだにはきれいな虹があらわれました。

「かなちゃんの雨と、ボクのおひさまがあるから、虹が出てきたんだよ」

かなちゃんはうれしくて、つい笑顔になりました。
かなちゃんの頭の上の雨は少し弱くなりました。
かなちゃんにとっては、その天気はとてもうれしいということなのです。

かなちゃんとこうたくんはうれしくなって、
ずっととおくへ、走りだしました。
虹もいつまでも、2人を追いかけます。

「うわあ、見て。虹だよ」
「本当だ、とってもきれい」

みんなの声に、かなちゃんはまたうれしくなりました。
となりを見ると、こうたくんも恥ずかしそうに、でも
とてもうれしそうにしています。

この日かなちゃんは少しだけ、雨が好きになりました。

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