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無駄ムーブ


昨年の夏、彼氏と北海道へ旅行に行った。
人生3回目の北海道だった。
2回目はというと大学卒業時に行ったことがあったのだが、尺的な問題で割愛することにする。

私は以前より北海道が大好きだ。
子どもの頃食べられなかったウニとイクラが食べられるようになったきっかけは北海道の美味しい海鮮丼だったし、何せ全ての食べ物が美味い。
この旅でも美味しいご飯を沢山食べ、そして綺麗な景色も見に行った。

しかし今回話すのは残念ながら北海道旅行記でも無くグルメの話でも無い。
靴の話である。

何故今になって靴の話を?と思うかもしれないが、戒めの気持ちも込めて書くことにした。これは書かなければいけない気がしたのだ。
私は昔から「ちょっと考えれば分かるだろ?」みたいなことをよくやってしまうのだが、今回はまさにそんな話である。

まあとにかく2回目の北海道から今回までのスパンは6年近くも間があって、
楽しみだった私は旅行前、家の靴置き場に眠っていたサンダルを引っ張り出し
服と合わせてコーディネートまでキメテいた。
その”眠っていたサンダル”とは結構昔に買ったもので、気に入ってはいたが履く機会も減り「旅行が終わったらお役御免かな」と最後の思い出に履いて行くことにしたのだ。

2泊3日の旅行だったので、初日は札幌に泊まって翌朝は富良野に行く予定だった。


札幌から富良野は大体これくらい


富良野にはラベンダーを始めとする植物が綺麗な場所が沢山あって、写真を撮るのが好きな私たちにはもってこいの場所である。
札幌からは結構距離があるということであらかじめレンタカーを予約し、準備万端だった。

そう、私の靴以外は。
あの「眠っていた」私の靴の話である。

初日の札幌は大変楽しかった。
多少雨が降っていたのはアレだったが、美味しいお寿司を食べたし展望台にも行けた。ついでに逆に見た方が良いとされるテレビ塔も見た。大満足で眠りについたのを覚えている。

問題が起きたのは二日目の朝からだった。ホテルを出て少し歩いていると、私は何もないところでつまずいた。
なにぶん早朝だったので寝ぼけていたのかとも思ったが、理由は他にあった。
急に靴底がめくれ始めたのだ。

何もよりによってこのタイミングじゃ無くても良いじゃない??

私は先ほど”この旅行が終わったらお役御免かな”と言ったのだ。
靴が定年間際に退職したのか、私が定年過ぎても働かせていたのか分からないが、兎に角絶対に壊れてほしくないタイミングで壊れたのは確かだった。
失ってから気付いたが、旅行中壊れて困るものの中でも靴って結構上位だ。

一歩足を踏み出すたびにめくれた部分が地面と接触し、つまずく。
これはまずい。一日楽しむどころでは無い。
早急に靴をどうにかしなければならない。

しかし大きな問題があった。
朝早すぎて靴屋など開いていないし、目的地に向かってから買うにしても富良野は自然の土地なので、そもそも靴屋があるかも分からなかったのだ。

さすがの私も、裸足で歩く勇気は無い。
さて〜どうしたものか。
私を頭を悩ませた。

まあ、トラブリガチな私には、これまでの経験で養ってきた冷静さはある。
ポクポクポク、と一休さんのように選択肢を張り巡らせる。
物事には大体抜け道があるのだ。
店が無いなら、新しく調達する以外の方法で考えれば良いのである。
当たり前だが、1から生成することはできない。
となると、修理だ。
私の頭の上で電球が光った。

そうだ、ボンドで靴底をハロウ。
靴底と靴本体を引っ付けてこんにちは作戦である。

幸いにもサンダルの底は木というか皮というか、そっちよりの質感だった。
ボンドならコンビニにでも売っている。
めちゃくちゃ賢い、私。

私は速攻ボンドを買って、一歩ずつコケながらもなんとかレンタカーへ到着した。
幸いに幸いが重なって、レンタカーで座っている時間は結構ある。
私は剥がれた靴底にボンドを貼り、大人しく助手席へ座っていた。
その間に固まって、到着した頃には元気な靴が戻ってきているはずだった。

そんな上機嫌な私、というナレーションそのものがフラグだったのだ。
今なら分かる。私の名案が名案だったことなど無いのだから。

車の中では羊羹パンを食べた。
北海道にはよくあるという噂だったが、匂いが羊羹のあんぱんって感じだ。
物珍しさにテンションが上がった私は、音楽を流しながら高速道路の景色を眺めていた。

30分程経った頃だろうか。
ふと足元を見た時、私は無言の悲鳴を上げた。

レンタカーがボンドまみれになっているのである。

無言の悲鳴と書いたが、私は声を出す0.1秒前に
あろうことか「これって隠蔽できる案件か否か?!」と思って口を閉じてしまったのだ。
滅茶苦茶タチが悪い。みなさん、これが私の本性です。

幸いレンタカーの床にはマットが敷いてあったので車本体を汚してはいなかったが、黒色の車に白いボンドの相性は最悪だった。
やばいやばいやばい。
漫画だったら縦3本おでこに引いてあっただろう私は2秒ほど考えて、諦めた。

みなさんも是非心のどこかに収めておいて欲しいが、こういう時は隠そうとするよりすぐさま正直に言った方がまだ罪は軽い。
「ごめんなさい、車をボンドまみれにしました」
今度は運転していた彼氏が声を出して悲鳴を上げた。

黒い車にボンド。
これは【白い部屋に血飛沫】くらいのインパクトがあって、
足元は大惨事だった。
私はせめて運転してくれている彼氏の精神状態を不安定にしたく無いので
「見ない方がいい」と静かに言った。
無力すぎる。私が出来ることはそれくらいのことだった。

こんなことになるなら、裸足で歩いた方が100倍良かったかもしれない。

実際彼氏は怒ったりせずに(呆れてはいた)
「まあ、ボンドは洗えば取れる」と言ってスーパーに寄ってくれた。
冷静に考えると【運転免許を持っていない隣の彼女、車の助手席をボンドまみれにする】というトピック、彼氏からすると最悪だったに違いない。あれは『私たち新聞』の1面に載ってもおかしくないニュースだった。
車は百均で買ったブラシで借りた時より綺麗に洗いました。あの時は本当にごめんなさい。


そして靴は結局どうしたのかというと、富良野にあるしまむらに寄った。
しまむらはあるんかい、と思ったが、逆に田舎にあるのがしまむらだ。
ありがたい事この上なし。お陰でその日も沢山歩けたし、もうつまずいたりはしなかった。
しかしブラシを買ってボンドを洗い、しまむらに寄って靴を買う。
あの一連の流れは全部が無駄だった。
最大限に効率を悪くした無駄だった。
旅行中とは思えない無駄だった。
まああれも思い出、とすら言えないくらいの無駄ムーブだった。


しまむらで買った990円の靴を、私は今でも履いている。
靴もびっくりだろう。彼は使われても夏の間だけ、くらいに思っていたに決まってる。
そう考えると志半ばで靴底が抜けてしまったサンダルも、罪は無いかもしれない。


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