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両手に柿の葉寿司のアリエル

金曜日、祖母が柿の葉寿司を送ってくれるということで、夕方には家に帰らなければいけなかった。
本当は午前の指定で宅配してもらう予定だったのだが、都合により家を出なければいけなくなった為に一番遅い時間帯に変更してもらったのだ。

私は宅配便が苦手だ。
宅配便というか、インターホンが苦手だ。
家にいるという完全リラックス状態から人と話すスイッチに突然切り替えなければいけない。
電話でさえ一回では出られず、番号を調べてからかけ直すというのに、インターホンは出た後に「会う」という、ハードルを5つくらい超えたミッションが待っている。

知らないおじさんやおばさんと(まあお兄さんのこともあるが)スッピン丸腰で会わなければいけない状況が耐えられないのだ。
だから、インターホンに出なければいけない時、私は相当気合を入れる。
格好とかではなく気持ちに喝を入れる的な意味で。

今のご時世、大抵は宅配ボックスでことなきを得ているが、唯一どうしても対面で受け取らなければいけない荷物がある。
SO,クール宅急便である。
話が本筋からズレたが、インターホンが私のように苦手な人は結構いると思う。
絶対に外れない40センチくらいのキーチェーンがあれば幾らか安心して人と会い荷物も受け取れる気がするが、自分が二度と外に出られないデメリットが生じてしまう。難しいものである。

とにかく私は夕方までに帰路に着かなければいけなかったのだが、昼食を食べそびれていたせいで絶妙に空腹だった。
しかも、柿の葉寿司が届くというのに中華の気分になっていた。
柿の葉寿司と中華は対極にある。

家に帰ったら100%寿司しか無い。
現在17時半。指定の時間は19時以降。
まあ19時丁度に来ることなど無いから、家に帰って暫くは荷物を待つことになるだろう。そんなに待てないくらい、私は空腹だった。
私はラーメン屋に寄り、19時までに帰ることに決めた。

指定の時間まではまだあった為、よく行く町中華の台湾ラーメンを食べた。
私は定期的に台湾ラーメンを食べたくなるのでチラホラ食べたことはあるのだが、その店は大変美味しくお気に入りの店である。
年齢層の高めな店の中で一人浮いていたような気もするが、『1人で町中華に入った』という行動は自分自身をワンランク上げた気がした。

18時20分くらい。誇らしげに満腹になった私は急いで家へ向かった。
家に着いたのは18時50分ごろだったので、指定時間のギリギリ前だった。
指定は21時までなので、届いたら今日少しつまんでみよう。

…という計画とは予想外に、荷物は19時前に着いた。
危なかった。帰ってまだコートすら脱いでいないタイミングだったのだ。
薬局に寄るか悩んで辞めたのは正解だったようだ。
あと少し帰るのが遅かったら柿の葉寿司を受け取るという1日で一番大きなミッションを失敗するところだった。

どれどれ。
早速包装紙を開けてみると、黒くて上品な箱が顔を覗かせた。
私が普段見る柿の葉寿司は駅で売っているような土産物ばかりなので、見るからにいつもと違う代物である。
そして結構大きい。
箱を開けてみると、20個もあった。
ちょっと…お腹がいっぱいかもしれない。

箱の中身は美しく緑の葉に包まれた寿司たちが規則正しく並んでいたのだが、
唯一残念なことに、私は満腹だった。

そういえばアリエルが海の中で「20個もあるの」とスプーンやフォークのガラクタを見せていたシーンを思い出す。
私も今なら両手に柿の葉寿司を抱え、同じセリフを言える。

よく見て、素敵ね、これでもっと満腹〜♪
陸にある寿司手に入れたから〜〜♪

『届いたらちょっとつまんでみよう。』
先ほどまで思っていた決意はなんだったのか。
柿の葉寿司が届くことを知っているのに台湾ラーメンを食べるバカがいるか。
私だ。
餃子も食べました。

一体なぜ私は目の前の空腹しか考えられないのか。
悔し涙を浮かべながら、1つ寿司を手に取った。
鯖の寿司だった。
柿の葉が良い匂いを漂わせている。
奈良の良い寿司屋だと思う。味もやっぱり美味しかった。
流石に万全のコンディションで食べなければ寿司屋にもおばあちゃんにも申し訳が立たないので、2時間ほど胃袋を置いて残り4つをその日に食べた。

残り15個もある。

2日目の晩御飯、私は前日の反省を踏まえ、万全のコンディションを整えて柿の葉寿司を食べた。
しかし普段柿の葉寿司を贅沢に食べることが無かったので気付かなかったが、柿の葉寿司は結構腹が膨れる食べ物だ。
よく考えれば至極当たり前である。酢飯をぎゅーっと握った上に魚を乗せているのだから。

万全だったにも関わらず、10個で限界を迎えた私は消費期限の表示を探したが、捨ててしまったのかどこにも書いていなかった。なんとまあ。
酢が強いものの、ジャンルでまとめると寿司であることには違いない。
結局、ネットで調べると製造日から3日が限度であった。
何度指を折って数えても、3日はその日だった。
仕方が無いので私は『時差』という都合の良い言葉を使って、翌朝残りを食べることにした。良い子は真似しないでね。

結論、冷蔵保存していた私は4日目の朝も電子レンジを使って美味しくいただくことができた。
しかし、初日に台湾ラーメンさえ食べなければ、
もっといえば午前指定のまま受け取っていさえすれば、
1日2食に分けるだけで10個だってそんなに辛い数では無かったし、
もっとスムーズに消費出来ていたに違いなかった。

もう絶対、柿の葉寿司が届く日に台湾ラーメンは食べないと心に誓った。
そんな稀有な日が、次いつ訪れるか分からないけど。


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