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「孫子の兵法」に学ぶスピーチ 空気に色を付け「見える化」する技術(7.軍争篇)

 スピーチやプレゼンの段取りは、ライバルや聴衆の情報収集や分析を行いながら進めていくわけであるが、機先を制することほど難しいものはない。
 つまりそれは、曲がりくねった長い道を真っすぐな近道にし、害を利益に変えるようなものであり、相手の裏をかきながら、仕上げていくことになるが、反面それは危険を伴うことでもある。
 それはなぜか、陸軍の編成になぞらえてつぶさに見ていけば明らかになってくる。
 火力は最も大きいが、一番足の遅い「砲兵」は、スピーチの成否に最も大きく影響するが、短い期間ではどうすることもできない「①見識と人格」といえよう。
 小銃やバズーカ砲や手りゅう弾などを用い、一番緻密な作戦行動をとることができる「歩兵」は、「②話す内容の作成」と言えるだろう。
 さらに一番足が速く、運用の仕方によっては絶大な戦果を挙げることができる「騎兵」であるが、防御力はないに等しい。これはスピーチにおいては「③話し方の練習」である。
「①見識と実績(砲兵)」の薄い人が、しゃかりきになって「②話す内容の作成(歩兵)」や「③話し方の練習(騎兵)」に励むことは、いわば砲兵の援護なしで歩兵の肉弾攻撃を繰り返して貴重な戦力を消耗し、挙句の果てにはトンチンカンなタイミングで騎兵を突撃させて、全滅させる無能な司令官のようなものである。
 さらに聴衆の考えがわからないのであれば、事前の段取りを行うことはできず、聞き手のニーズや個別の状況がわからないのであれば、話の方向性を決めることができず、細かい事柄に通じた相談役がいなければ、きめ細やかな対応をすることはできない。
 そこで、スピーチやプレゼンテーションは、ライバルや聴衆の予想を超えた内容に仕上げることを旨として、キレのあるフレーズや全体の組み立てを巧みに行いながら、変化をつけていくものである。

【解説】 
 本編でたとえ話として用いられている「陸軍の編成」は、本書で繰り返し説明してきた考え、すなわち「人格や見識を高めるための自己教育は、あらゆるテクニックに優先する」ということに通じます。
 同時にライバルや聴衆の状況をつかむ中で、「現時点でどれだけリターンの伸びしろがあるのか」ということを見極めることも大切であるといえるでしょう。「身の丈(人格・見識)」に合わない内容やオーバーアクションな話し方をすることはリスキーであることも既に述べたとおりですが、失敗を恐れるあまりに「チャンスを逃がす」ことも価値的でない場合があります。
 筆者は、書いた物を「(読み上げる)スピーチ」の原稿作成を専門にしておりますので、どちらかというと「リスク回避」に軸足を置いて考える傾向が強いと自己分析しております。ただし、読者の皆様は本書の全体を学び取る中で「リスク」と「リターン」の両面から判断を行ったうえで、スピーチの戦略を立案・実行し、場合によってはスピーチライターやスピーチトレーナーなどを上手く「活用(あくまでも決断は自分で行う/専門家としての意見を参考にしながらも全てを鵜呑みにはしない)」されるのが良いと思います。

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