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山の記憶 -屋久島編 第3話-

時刻は早朝3時。
他の方を起こさないように気をつけながら、手早くエネルギーを摂取します。

今日の目標は宮之浦岳のてっぺんに無事立つこと。
山頂からの展望を独り占めするために、少し早起きしてテント場を後にします。


月明かりに照らされて

まだ暗い森の中を、ヘッドライトの光だけを頼りに進んでいきます。
距離感が掴めない場所から、時折動物の鳴き声のような音が聞こえます。

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空には他の星たちの明かりを抑えつけるように、半月が存在感を放っていました。
ライトを消すと、辺りは暗闇の中に包まれますが、不思議と不安な気持ちはありませんでした。

森全体が自分達を見守ってくれているような、そんな包容力さえ感じていたように思います。

少しずつ、少しずつ、空の色が変わっていきます。
照らされた前方5mを確かめながら、2つの足で一歩一歩登っていきました。

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太陽と共に

樹林帯を抜け、稜線にでます。
ふと東の空を見ると、厚い雲の向こうから、太陽が昇っていました。

山肌は一気にオレンジ色に染まり、今まで見えていなかった景色が広がります。
うまく形容できる言葉もなく、しばらくただそれを眺めるだけでした。

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これまで幾つもの山で朝日を見ましたが、このスケールとインパクトは初めての経験でした。
毎日のように昇る朝日の偉大さ、そのエネルギーを一心に受ける屋久島の自然の深さを考える瞬間が、そこにありました。

山の頂にて

太陽が気温を上昇させ、雲がだんだんと下から迫ってきます。
その勢いに急かされるように、山頂が見えてから一気にスピードが上がります。

登り始めてから数時間、ついに九州最高峰宮之浦岳に登頂しました。

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心配していた天気も申し分なく、見渡す限りの大パノラマ。
海の上にまた雲の海が広がっているその光景は、筆舌に尽くし難いものがありました。

山頂には人もまだまばらで、ゆっくりとその景色を堪能することができました。
簡単には来ることができない場所だからこそ、その感動もひとしおだったように思います。

名残惜しさを抑えながら、淀川登山口までの下山を開始しました。

淀川小屋までの道のり

登りはあれほどタフだったのに、下りとなると標高がどんどん下がっていくのが分かります。
しばらくの間は森林限界よりも上のエリアを、良い展望を満喫しながら歩いていきます。

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森に入ると、途中幾つかの"水たまり"を通りました。
屋久島に降る雨は、所々に集まって小さな湿原を形成しています。

花之江河もその一つで、その辺りは森の中にありながら少し開けた場所になっています。
絶好のお昼ご飯スポットで、休憩をかねておにぎりをいただきました。

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下山

淀川小屋まで来ると、今回の登山のゴールである淀川登山口まではあと一息です。

小屋の名前の由来は、小屋のそばを流れる「淀川」からきています。
澄んだ水の流れる川のそばで休んでいると、思わず時間を忘れてしまいます。

淀川登山口から宮之浦岳を目指すルートでは、前夜泊でこの淀川小屋に泊まる方も多いと聞きます。
この場所でゆっくりと一晩過ごすのも、きっと忘れられない思い出になると思います。

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淀川登山口に着く頃には、二日間の山行を思い返して、寂しささえ感じていました。
思い出を振り返りながら降りてゆく時間も、また特別な時間になりました。

登山口からは公共のバスを使用する予定でしたが、同じタイミングで降りてこられた登山者の方のご好意で、同乗させていただいて安房まで連れて行っていただきました。その何気ない優しさに、じんわりと心が温まりました。


屋久島登山では、人や自然の懐の深さに至る所で気付かされる二日間だったように思います。拙い写真や文章ではありますが、少しでもそのことをお伝えすることができていれば嬉しいです。


屋久島の山の記録はこれで一旦区切りですが、また山以外の島のこと(ご飯や観光スポットなど…)も記事にできればと考えていますので、その際は見ていただけるとありがたいです。

複数回にわたって、最後まで読んでいただいてありがとうございました。



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