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山梨大学ワインセミナーで山梨と日本ワインの話を聞いた

近年目覚ましい成長を遂げて国内外からも注目を浴びている日本ワインですが、その主要生産地である山梨県に存在する山梨大学には「山梨大学ワイン科学研究センター」というワインの美味しさを科学的に研究する機関が存在します。

その「山梨大学ワイン科学研究センター」を主体に「山梨県」と「山梨県ワイン酒造組合」の産・官・学が協力して開催されたワインセミナーに先日参加してきました!

ワインを「科学的に解説する」という非常にユニークなセミナーではどんな話がされたのかを、資料からの引用を交えつつレポートいたします!

講義1:ブドウの栽培環境とワインの品質

ワインにはなぜ味わいに差が生まれるのか。

ワインは品種や産地によって幅広い個性をもつことが大きな魅力です。
岸本 宗和さん(山梨大学ワイン科学研究センター准教授)が行なった講義では「どのような科学的な要素がワインに影響を及ぼすのか?」を説明していただきました。

ワインの育成に適する条件

ワイン用のブドウを育成するには下記のような地域が適しているそう。

・年間平均気温:10〜16℃
・日照時間:1300〜1500時間以上であること
・比較的雨が少ないこと

このような気候をベースとして、冷涼な気候下では「香り高く豊かな酸味をもつ爽やかなワイン」、温暖な気候の場合は「果実味の豊かな味わい深いワイン」になる。とされていました。

これは講義の後に調べた内容ですが、気象庁によるとワイナリーが多くある甲府市の気候は

・年間平均気温:14.3℃
・年間平均日照時間:2183時間
・盆地のため少雨地域である

と、ワイン用ブドウを栽培する条件の整った土地だということがわかります。

温暖化が与えるブドウへの影響

また、近年の気候変動により生産地の変化やブドウ品種の選定などが変わってきており、今までワインを造ることのできなかった地域でワインを作ることができるようになったり、反対に既存地域の衰退を招く恐れがある。という内容が興味深かったです。

1つ目の講義からなかなかマニアックな内容だったと今にしてみれば思うのですが、ブドウを農作物として科学的な視点で見ることにより、「この地域ではどんなブドウが適しているのだろうか?」というような様々な予測が立てられるようになるのはとても面白いな。と思いました。

講義2:「山梨のワイン」

山梨のワインを取り巻く情勢や環境について。

山梨のブドウ自体は江戸時代からすでに名所として知られていたと小松 正和さん(山梨県産業技術センター 主任研究員)は話します。

西洋文化の取り入れに積極的だった明治時代には県立葡萄酒醸造所が設立され、本格的な製造が開始されました。昭和になると品質向上の為に品評会や積極的な研究などがされましたが、第二次世界大戦の軍需によって大量に生産された劣化ワインの蔓延を招いてしまいました。

日本で初めてのワインの地理的表示認可

そういった時代を乗り越えて、現在では全国の3割のワイナリーが集結し、日本でもっとも多く日本ワインを生産している山梨県ですが平成25年から日本ワインにおいて初めて「地理的表示制度(GI制度)」の産地指定を受けました。

地理的表示制度とはフランスやイタリアにおける格付け制度と似たようなもので、ワインでは日本で初めて山梨が指定を受け、2018年には続けて北海道が加わりました。現時点でもワインの地理的表示認可を受けているのはこの2つのみとなります。

これらの表示がされているものについては指定された該当産地のブドウを100%使用し、その産地で製造・瓶詰めされたものになりますので、「日本ワインを試してみたい!」という方は「GI Yamanashi」の表記を参考に選んでみるのが良さそうです。

講義3:「ワインのフレーバーとおいしさ」

おいしいワインとまずいワインの違いって?

少々の休憩を挟んだのち、ワインの風味についての講義が奥田 徹先生(山梨県産業技術センター 教授)によって始まります。

ワインが「おいしい」科学的理由

ワインが「美味しい」というのはつまりどういうことなのでしょうか。講義の中では「まだわからないことの方が多い」としながら下記のような要素が影響を与えているとされていました。

・味(味覚)
・香り(嗅覚)
・硬軟粘度(触覚)
・色、光沢、形(視覚)
・音(聴覚)
・雰囲気
・食習慣や文化

単純な味覚ではなく、五感をすべてと文化などの生活の背景も美味しさに関わる重要な要素だ。というのは意外でした。

とは言いつつも今回はワインを「科学的に解説する」というのが主題なので、ワインの美味しさに関係する成分のお話が続きます。

ワインを美味しくしている成分とは

例えば赤ワインには下記のような成分が含まれます。

・水分(85%)
・アルコール(エタノール/12%)
・単糖類(グルコースなど/2%)
・有機酸(酒石酸、リンゴ酸/0.7%)
・ポリフェノール類(タンニンなど/0.3%)
・多糖類(細胞壁成分など/0.3%)
・その他(香り成分、亜硫酸塩など/微量)

原料となるブドウにおいて糖や酸味の濃度にあまり違いはなく、ワインの品質の大部分を決めるのは微量に含まれる香り成分であると先生は話されます。

わかる香りとわからない香り

この香りというのは人によって感じ方に差があるらしく、ここで3種類の香り成分を実際に嗅いでみる体験をすることができました。

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1つ目はバニラの香りの素である「バニリン」
これは一般的に多くの人が体感できる香りです。ワインでも熟成させるときに使う樽の香りとして有名ですね。

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2つ目は「βイオノン」
聞き慣れない成分ですが、このβイオノンはスミレの花やラズベリーの香りのする、香りを感じる人と感じない人に分かれる成分です。実際に嗅いでみたところ、筆者は薄く高原のような清涼感のある香りがした...、気がしました....。
ピノ・ノワールなどの果実味が強いワインを飲むときに影響を受けそうです。

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最後の3つ目は「4-EP(エチルフェノール)+4-EG(エチルグアイアコール)」というこれまた聞き慣れない成分。
これらは「馬小屋」や「汗臭い鞍」などと表現され、一般的に歓迎されない香り(オフフレーバー)で、確かに革っぽさなどのいい香りとは言いづらいものでした。

ただ、面白いのはオフフレーバーであってもごく微量であればワインの複雑味として好ましく感じられたりするそうで、ワイン(というより人間)の感じ方は結構大雑把にできているなあ。と感じました。

講義4:「ワインのテイスティング」

山梨のワインを堪能!!

講義の最後はもちろんお待ちかねのワインテイスティングです!庄内 文雄さん(山梨県ワイン酒造組合副会長)の「お待たせいたしました。」の一言で会場内から笑い声が上がります。

気になるワインのラインナップですがやはり山梨のワイナリーがメインの計7本で、1つのみ長野県の塩尻のロゼが加えられていました。

・ルミエールスパークリング甲州 2017
・塩尻ワイナリー塩尻メルロ ロゼ
・まるき甲州 2018
・シャトーメルシャン 岩出甲州きいろ香キュベ ウエノ 2018
・2017 ルバイヤードシャルドネ「旧屋敷収穫」
・マスカット・ベーリーAラシス 2018
・シャトーメルシャン 鴨居寺シラー 2017

この中から特に印象に残ったものをご紹介します。

ルミエールスパークリング甲州 2017

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まずは山梨県原産のブドウである「甲州」を使用したスパークリング。
甲州種の特徴のようなのですが、ゆずやはっさくなどの和柑橘の風味を持ったさわやかな1本です。

塩尻ワイナリー塩尻メルロ ロゼ

すみません、写真撮影を失念してしまいました...。

こちらのロゼワインは長野県の塩尻地区で作られたもの。
2019年の日本ワインコンクール ロゼ部門で最高賞を受賞したワインなのですが、可愛らしいサーモンピンクの外観とは裏はらにふくよかな旨味をもつしっかりとしたロゼです。

シャトー・メルシャン 岩出甲州きいろ香キュベ ウエノ 2018

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こちらも甲州を使用した、大手ワイナリーメルシャンが手がける白ワイン。

品名にも入る「きいろ香」なのですが、発見までには紆余曲折のストーリーがあります。

以前の日本ワインの評価は「薄い」「特徴がない」などと、あまり良いものではありませんでした。
そこで一念発起したワイナリーが「甲州ワインプロジェクト」を立ち上げ、様々な工夫を施して甲州の特徴を引き出そうと腐心します。
その結果、発酵試験を行なっていると、数あるワインの中から今までとは違う香りのものがあり、それをボルドー大学でワインの香り研究をしている富永博士に送ったところ、ソーヴィニヨン・ブランにも含まれる香り成分が発見されました。

その成分が発見されたのちの初のビンテージとなったワインはまたたく間に完売し、国内外の日本ワインの評価を覆すきっかけとなりました。

そんな「きいろ香」の名を持つこちらのワインも当然ながら香り高い。イキイキとした酸味が特徴の1本です。

シャトー・メルシャン 鴨居寺シラー 2017

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山梨県の鴨居寺ヴィンヤードにて収穫されたシラーを使用したフルボディの赤ワイン。
2019年の日本ワインコンクール 赤ワイン部門にて最高賞を受賞したこちらのワインはシラーらしい赤い果実やスパイシーな香りを感じつつ、タンニンの調和の取れた1本。

山梨のワインは進化し続けていた!

筆者は日本ワインをだいぶ昔に一度飲んだきりだったのですが、当時の記憶と比べてとても美味しく飲めるようになったなと感じました。それに加え和柑橘の特徴などをプッシュした白など、どういった特徴を押し出していくのか。という工夫を追求している段階に入っているように思います。

おいしいは自然と経験が作るもの。

山梨のブドウ作りの地理的特徴から醸造の歴史を学び、美味しさの構成を教わってからの山梨ワインを試飲。山梨ワインの魅力を存分に体感した1日でした。

ワインの原材料であるブドウは農作物で、当然ながら自然の環境に品質を左右されます。
その自然を研究し、分析し、なんとか日本のワインをより良いものにしようと情熱を燃やす人たちがいます。

確かな経験と豊かな自然が作るワインをより楽しむためにこういった知識をたまには勉強してみるのも良いものですね!

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