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発明とアート、意外と関係は深い?

秋元雄史著「アート思考」(プレジデント社)という本では「アート思考」について説明されています。

アートは人々を幸福にするために追及されるものであり、本質的な部分で共感を起こしているとのこと。そして、アート思考は「何が問題なのか」といった問いから始めるのが特徴であり、既存のものとは全く異なる発想を行う時に求められ、ゼロから何かを生み出す思考方法であると同書では説明されています。

「何が問題」であるか考え、「既存のものとは全く異なる発想」というところなどは発明が創り出される過程に似ており、常々「発明」と「アート」とは近い部分がある、と感じています。

とはいえ、「アート」と「発明」や「技術」、そして「特許」とは非常にかけ離れていると通常は思うはずです。しかし、例えば、初期ルネサンスのマザッチオが遠近法や消失点という「技術」を導入し、イタリアの美術において自然を理論に基づいて再現する手法が研究されたように、「アート」と「技術」とは密接な関係にあると言えます。

もちろん、絵画や彫刻などは一品制作物なので、通常は、技術的アイデアである発明や特許がアートに即、結び付くというわけではありません。しかし、デジタルアートや新しい技術を利用したアートも存在しています。そのようなアートになると技術的アイデアが深く関わってきます。そのほんの一例を見てみましょう。

「願いのクリスタルツリー」

「願いのクリスタルツリー」というチームラボさんの作品があります。これは複数の発光ダイオード(LED)を上下左右奥行き方向に並べた3次元ディスプレイを用い、各LEDの発光の仕方を制御することで、巨大な立体映像を構築するものです。

具体的にどんなものでしょうか?チームラボさんのHPに紹介されています。

パッと見、多くのLEDがあるからこそのアートに見えます。この「願いのクリスタルツリー」に関連する特許はあるのでしょうか?

ありました!ちょっと特許を見てみましょう。

「3次元ディスプレイ及びデータ生成方法」という特許

「3次元ディスプレイ及びデータ生成方法」という名称の発明が特許になっています。特許第6393518号として成立しています。

ちょっと難しいですが、「請求項1」を引用します。「請求項」というのは発明を特定するために必要な事項が記載されている項目です。技術的アイデア(今回はアート!)を文章で表さなければならないので、慣れていないととっつきにくいと思います。

『【請求項1】
 左右方向, 上下方向, 及び奥行き方向に並べられた複数の多色発光素子を備える3次元ディスプレイ用の発光データを生成する方法であって,
 3Dポリゴンモデルを取得する, モデリング工程と,
 前記3Dポリゴンモデルを複数のボクセルで表現し, 各ボクセルの位置情報を計算する, ボクセル化工程と,
 前記3Dポリゴンモデルについて, ある特定の視点に対する正面側表面のカラー情報と,当該ある特定の視点に対する背面側表面のカラー情報とを計算する, 表面カラー計算工程と,
 前記位置情報を参照し, 前記正面側表面と前記背面側表面の間に位置するボクセルのカラー情報を, 前記正面側表面のカラー情報と前記背面側表面のカラー情報に基づいて計算する, 内部カラー計算工程と,
 前記位置情報を参照し, 前記各ボクセルのカラー情報を2次元の相対位置にマッピングして, 前記発光データを生成する, マッピング工程と, を含む方法。』

要するに、複数の発光素子を発光させるためのデータの生成方法を規定しています。3次元に配置された複数の多色発光素子、つまり複数のLEDの発光のさせ方をうまく制御することで、上記チームラボさんのHPにあるように、ボリューム感のある立体画像が目に飛び込んでくる、というわけです。

J-PlatPatより。特許公報(特許6393518)の図1を引用。

小さな丸1つ1つがLEDを表しています。複数のLEDを縦方向の一列につなげたものを半径の異なる複数の環状の枠体のそれぞれからいくつもぶら下げて組み合わせています。

この1つ1つのLEDの発光のさせ方をコントロールすることで、好きな画像、しかも奥行きを持った画像(立体画像)を離れたところから見ることができる、というものです。

アートと技術の関係は深い、のだろう

この記事の冒頭でも述べましたが、アートと技術とは昔から密接な関係にあったのだと思います。それはいまでも同様なのだろうと思います。

特に、新たな技術が開発された場合、アーティストの中にはそれをいち早く自分の作品に利用するということがあります。

例えば、Kinect(キネクト)。人の動きをコンピュータに入力できるデバイスです。このようなデバイスが出た当時は簡単には手に入りませんでした。しかし、比較的安価で手に入る時代がすぐに来たため、そのようなデバイスを用いてアート作品を創り始めた、というアーティストもいます(参考:株式会社デイジー稲垣匡人と多くの参加者、編集 今智司、『新しい時代におけるアートとテクノロジーの関係性–化学反応の大地–』、場の科学、2021、1巻2号、p.3-33 )。

デジタルアートやメディアアートの制作にはコンピュータ等をソフト面及びハード面で活用する必要がありますが、いまや、そういった技術は安価で手に入りますし、誰もが使えます。これによりアーティストは作品創りの「絵筆」として様々な技術を活用できるようになっています(参考:前掲『新しい時代におけるアートとテクノロジーの関係性–化学反応の大地–』)。

新たな技術が生まれた場合、その技術を技術者・開発者とは異なる見方でアーティストが捉え直し、もともと考えていた用途とは異なる用途に使ってみることもあるのではないか(その逆もしかり)と思うと、少し見方を変えるだけで発明がアートになったり、アートが発明に利用できたりすることもあるかもしれません。

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