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優しさは

優しさは与える人が簡単で軽い物と思っても、
それを受けた人には涙が出るほどの衝撃である場合があるようだ


他の記事で書いたが、私は学生時代の夏休みは富士の麓のリゾート地で
地獄のような住み込みバイトをしていた
そこには毎年数人が希望を胸にやってきて、バイトなどする必要のないかの様な金持ちリア充カップルと、青春をこれでもかと謳歌しているテニスサークル男女が押し寄せ、世界と我々は隔絶しており、埋められない溝があるのだと現実を知るバイトだ

それでも諦めきれない貧乏学生達は、手近な所にも可愛い子がいる事に気づく、だがこれは決して夏休みマジックでも、リゾートの恋でも妥協でもない
誰がなんと言おうと違うのだ、出会うべくして出会った運命だ、純愛だ

1年目は年上の先輩が2人と、同じ年の女の子が3人計6名体制で、鬼軍曹を遥かに凌ぐ鬼女将の下で働いていた
その内の一人が、私も可愛いと思っていたが、どうやらいつもタオルをバンダナ風にしている優男先輩と惹かれあっているらしい

これだけCIA並みの諜報力があるのだから、破壊工作にも才能があるのかもしれないが、そこは昭和の漢、フーテンの寅さんばりに二人を応援したのだ
仕事の割り振りをそっと二人になるように気遣ったり、
夜は寅さん役2名で遊びに行ったりして、タオルバンダナを置いてきたり

私は、生来のツンデレであり、そんな言葉自体が地球上の誰の頭にもない時代から実践してきた
そう、それは受け取る側にも存在していないのだ
だが、人間に於いて共通の言語を持たないことは、往々にして悲劇を生み出す
そう、私はその女の子にただの冷たい、感情の薄い奴として嫌われていたのだ。愛想の良い彼女にしてみれば、人生で初めての嫌な奴だったのかもしれない
諜報活動の末、私は勝つ見込みのない戦いである事を悟り、外交活動を重視し、平和を望んだ

そして、永遠に続くかと思われた夏のリゾート地における狂乱も終わりにさしかかり、ほんの少し朝晩が涼しくなってきた頃、それぞれの本来居るべき土地に戻る時期が来た

私はその女の子が明日帰ると知った晩、自分の財布から未使用のテレホンカードを2枚渡した
二人は付き合っていたが、家は遠かったのだ
「これからたくさんこれが要るでしょ?」 それだけ言って渡した
敵に塩送るどころではない
インフラ整備まで整えて白旗を挙げたようなものだ
そして、サッと寝床に行った
見送りは行かなかった、だからその後の彼女の表情は知らない
ただ、目を丸く大きく広げ驚いた表情だけが脳裏に焼き付いた

当然、コミュ障も発病しつつあった私は、その表情を見て自分が余計な事をしたのではないかと悔いるのみであった
ずっと知らないフリをした方が互いに幸せだったのではないのか?云々


だが


9月に入り、バイトは私だけになっており、いい加減お前も帰れよ
客居ないんだし…
と毎日の掃除をしながら、背中に女将さんからの視線を感じていた頃
1通の手紙が私に届いた
あの女の子からだ
内容は、驚いてお礼を言えなかった事への謝罪と、私への勘違いへの謝罪
世界一は彼氏だが、優しさは誰にも負けない、
感動してあれから泣いたのだと


ええ子や…(´;ω;`)

例えこの手紙がなくても、感謝されなくても自分が思う優しさは相手に伝えないと行けないし、行動すべきだと学んだ
私にしてみれば、ただ持っていたテレカを渡しただけ
だけど、相手を思いやる、想像する、行動する
これにその子は感動してくれたらしい
思えば、だから今もサービス業にいるのかもしれない
きっと優しさはいつか人に伝わる




そして、ちゃんと時々電話をしていたのだが、
新学期が始まり学校に行ったところ、私の彼女は同級生に取られていた


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