見出し画像

暮らしの全体に創造性を

カール・ラーション
スウェーデンの暮らしを芸術に変えた画家

@東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館

会期、明日までなのに今さら感想を書くなんてどう考えてもお勧めする側として失格だなあとは思うのですが、とても良かったので是非ご紹介させてください。

元々知っていた画家という訳ではなく、新宿で時間が出来たのでふらりと足を運んでみた、というのが行ったきっかけです。あと「スウェーデンの暮らし」というキーワードにときめいたから。


初めて訪れた日本興亜美術館。
コクーンタワーのすぐ近く、新宿センタービルのお隣です。
エレベーターで44階へ。開館すぐの時間に行ったのでとっても静か。エレベーターの案内をしてくれる守衛さんの声が聞こえるだけ。
あ、お手洗いは1階より44階で行った方が広いです。

受付横に鉛筆が用意されていたの親切で良かったなあ。折角なので作品リストにメモを取りながら鑑賞することに。
無料のロッカーもあるのが最高。ひとつひとつが大きめなので荷物が多くなる冬も安心。カバンもマフラーもコートも預けて、作品リストと鉛筆とポケットにiPhone、それだけ。

ロッカーがある場所からの景色。あいにくの曇り模様。どデカいコクーンタワーよ。東京は色が無いなあ。東京が、なのか。日本が、なのか。


さて、そもそも今回の展示とは。

日本とスウェーデンの外交関係樹立150周年記念展示とのこと。
カール・ラーションはスウェーデンの画家で、日本のことが大好きで大きく影響を受けているそう。展示を観ていく中で、こんな方が日本を好きだと言ってくれるのはなんて嬉しいことだろうと思ったよ。ただ、カール自身は日本に来たことはないんですって。
実際に日本に訪れる機会があったらどんな絵を描いたんだろう。

だってね、カールは「地球上で本物の芸術家は日本人だけだ」なんて言ってるんですよ。日常生活から意外性や面白さを発見できるということを浮世絵を通して感じたらしい。ヨーロッパは結局作為的でどこか紳士気取りだから、って。おお、カール・ラーション…。
言われてみれば成る程なんですが、先ほど載せた美術館入り口の写真に使用されているカールの絵、あれは中央に大きく花を描くことによって遠近感を取り入れていて、それが浮世絵から影響を受けている部分なんだとか。

重々しく民話や歴史を描くロマン主義。
風景をありのまま描写する自然主義。
カールはそのどちらでもない日常の風景を切り取って描いています。その時代そういう描き方をしたひとは珍しかったようです。その切り取られたカールの日常があまりにも素敵なんですよ。


35歳の時に家を譲り受けたカールは、46歳から18年間家の改装や増築を進めます。そしてその家の様子と家族の様子を水彩画で描きました。
今回はそんなカールの今までの作品と、カールが住んだ家リッラ・ヒュットネースの様子、カールの妻であるカーリンのテキスタイルなどが展示されていました。

思想家のエレン・ケイが「等身大の幸福な家庭」と表現していたけれど、わたしはこれがみんなの等身大になったらどんなに素敵だろうかと思ったよ。

当時、中流家庭の食事といえば序列関係がまだ厳しくて、例えばお父さんと子供は一緒に食事をとることを禁じられていました。しかしカールは家族ひとりひとりをとても大切にしていたのです。
だからこそカールが住んだ家リッラ・ヒュットネースは遊び心と機能性を併せ持った、全ての家族のための家なのです。というか、そういう家づくりをしたひとなのです。

美術館に絵を観に行ったつもりだったけど、わたしがここで観たものは憧れる暮らしぶりだった訳です。ふらりと訪れて大正解だったな。


アンティークの椅子を購入して自分たちの好きな色に塗り替える。座る部分と背中の部分の布はカーリンが織ったものに貼り替えて使用する。そのカーリンの織りが繊細で素敵なんですよ。カールのデザインをカーリンが織ったりして。なんて素敵なのかしら。
カールはカーリンの美的センスを信じていたから、自分の描いた絵でもカーリンが認めるまではサインを書かなかったんですって。そういうエピソードに深い愛情を感じちゃう。

はああ〜ときめきのため息が止まらない!

わたしがうっとりゆっくり歩いていたら美術館の方が「良かったらお使いになりますか」とバインダーを差し出して下さったり、本当に気分良く展示を観ることができました。


カーリンのセンス、わたしも大好きでした。
え、こんなものまで作れるの?ってくらい多才。

クッション、テーブルクロス、タペストリー、それからシャンデリアのデザインまで。

子供が着られなくなった洋服の布を他のものにリメイクしたり。その表現が「記憶の編み込み」というのもすごく良かった。キャプションを考えたひとどなたなんでしょう。天才!

当時はゆったりした洋服なんてだらしないって思われていたそうですが、カーリンは動きやすいゆったりしたドレスも自分で作っちゃう。これがいまの時代でも着たいと思えるデザインなんですよ。洋服だけではなくて帽子も作っちゃう。
実際に着ている洋服はまるでメリーポピンズのよう。

そう、そうなの!カールが庭にイーゼルをセットして絵を描いている映像が流れていたんですけど、本当にメリーポピンズのようで感動しちゃった。太めのストライプのワンピース。レースの傘。馬に乗ってやってくる紳士。大人たちの周りでにこやかに笑う子供たち。
映画の世界みたいだなあと思ったけど、これ現実なんだよね?わたしは海外に行ったことがないので自分の見たことない風景や光景を映画の世界のように捉えてしまう。すごく綺麗だった。美しい日常だった。
これが「等身大の幸福な家庭」だって言うの?信じられない。ものすごく幸福な家庭のように見えたよ。わたしの中で無形文化遺産だわ。


長い時間を過ごしていく家、長い時間を一緒に重ねていく家族、こころから大切に大きな愛情を持って接していきたい。カールとカーリンの夫婦のように、この家族のように。生涯わくわくしていたいし創造を止めたくない。

生き方や暮らし方のヒントを多く得ることができた展示で大満足。観終わってiPhoneみたらあっという間に2時間が経過していてぎょっとしちゃった。ひとりで美術館来ると文字通り堪能できるけど、その分インプット量があまりにも膨大になってへろへろになっちゃうな。少しも溢したくなくてぜんぶぜんぶ感じたことを吸収したくなった。


展示のラスト、スウェーデンということでIKEAさん協力のもと現代版アレンジのリッラ・ヒュットネースの一部再現がありました。

これだってもちろん素敵なんだけど、でもやっぱりカールの絵がないと、カーリンの刺繍がないと、違うのよ。
リッラ・ヒュットネース今もあって行けるみたいなんですよね。一生のうちに行きたいところまた見付けたぞ。


カールが描く子供達の絵がとっても可愛いんですけど、しばらくすると「うちの子も描いて」とリクエストが入るようになって描くようになったみたいなんですよね。その画集のタイトルが『他家の子どもたち』なのが結構ツボでした。
うん、ドライで良い。

この記事が参加している募集

#コンテンツ会議

30,736件

読んで下さってありがとうございます◎ 戴いたサポートは多くの愛すべきコンテンツに投資します!