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新たな挑戦を楽しみ続ける漫画家 -浅野いにおの世界展-

アナログ、デジタル処理、写真、そして3DCG。
漫画の描き方はどんどん進化を遂げている。

そんな新世代の漫画家が、浅野いにお
代表作は『おやすみプンプン』や『ソラニン』。

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1週間前の1月5日に『浅野いにおの世界展』に行って来ました。
画業20周年おめでとうございます!

展示を見る前にまず当選したトークショー会場へ。
20年の間に培った独自のCG作画についてという内容。

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全編写真OKのトークショー。
自前のPCを持ってきての説明のため、トークショーだけど9割は顔が見えない状態。前だけじゃなくて左右にもモニターが置いてあって親切。あと途中でコーヒーこぼしてアワアワしてました。顔が見えないから状況は分からなかったけど「すみません、今コーヒーこぼしました」って報告していてお茶目でした。

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こういう貴重なネームの公開があったり。
吹き出しの丸は何パターンか書いてあってストックしているんだとか。わたしは完全に素人なので説明すべて「へえ、そうなってるんだ」とポカーン状態。いやむしろ3分クッキング状態。

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これが、こうなる…?!
こちら連載中の『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(略称:デデデデ)に出てくる、侵略者たちが乗っている母艦。これが東京上空に浮かんでいて、そこから出てくる侵略者と日本の戦いが描かれています。というかそこがメインではなくてそういうことが日常となっている女子高生たち(最新刊ではすでに女子大生)が描かれています。いにおさん初のSF漫画です。すごく面白い。

毎回毎回これを描くのは大変だから、と3DCGで母艦を作ったんだそう。そうすることによって使いたい時に使いたい角度で画像として抽出し、漫画のコマに貼り付ける、と。描くのも大変だけど、CGで作成するのだって相当大変じゃないですか…。しかも使用する時にはそのまま貼り付けるんじゃなくて、その時その時で影の入る方向を考えて影も付けて…。
改めて漫画家さんの作業量の多さに驚く。パラパラ読んでいるけど1コマ1コマ注目して読みたくなってくる。まあ、ここまで作業量が多いのはいにおさんだから、かもしれない。
ほら、少女漫画は背景が白いコマも多いしね。

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ちなみに母艦はこういう風に使われていくのです。
これが、CGのちから。す、すごい。


漫画家の浦沢直樹さんがいろんな漫画家の描く姿を撮影した映像を観ながらその漫画家さんと対談するという『漫勉』というテレビ番組があります。いにおさんゲストの回もあったんですけど、浦沢さんが「手を抜くとか楽をするためのコンピューターじゃないってことが良く分かった」と言っていた意味を本当によく理解することが出来ました。
デジタルを使用すれば楽になる部分もあるかもしれない。一旦描いた線を消したり、コピーペーストだって出来るし、色だって塗った後で変更できるし、大きさだって変えられる。
だけどいにおさんはデジタルでどういう表現が出来るのか、挑戦し続けている。楽になった部分で挑戦し、遊び続けている。


いにおさんは背景に写真を使用することでも注目を浴びました。
写真をモノクロに加工して漫画に合うように中間色を無くして濃さを決め、印刷したものにペンで足りない部分を書き足していく。白飛びしてしまった輪郭部分。質感を大事に表現できるように書き足す。汚していくかのようにわざと雑に。アナログ感を出すことによって隙を作る。その方が読者も読みやすい。

先にトークショーを聞いたことによって展示の見方も変わりました。これは写真に書き足しているの?これは全部アナログでペンで描いているの?

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右の、写真を加工したものを左ページに合わせると、

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こうなる。こうして漫画が作られていく。
ね、3分クッキングのようですよね。3分の何倍も時間はかかっているんだけど。こうして分けて展示されてあるから素人にも分かりやすくて面白かった。

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これも写真を使用して背景を作る分かりやすい例。
写真を加工して書き足していくのと、最初から手描きで書くのとどっちが大変なんだろうとかも考えるけど、そもそもこういう手法を思いついて実践しているということ自体に価値があるなあという気がする。


技術面はこれくらいにして、漫画の内容へ。

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ソラニン』は全ページ内容覚えていると思う。
その中でも、ここのシーン。種田、種田よ…。

さっきまで背景技術の凄さについて散々書いたけど、わたしはそもそもいにおさんの描くどうしようもなく普通な登場人物たちが大好きなんです。だからネーム段階でも、もうすごくグッときちゃう。
特にここのシーンはね、、ああ種田…!(2回目)

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ビリーのカエルもいた。この汚れ加減が絶妙に良い。


今でも胸がぎゅっと痛くなるのは『おやすみプンプン』の愛子ちゃん。一度読み終えてから読み返せていない漫画。読み返せないほどトラウマになる。だけどずっと忘れられないしいつかはまた読みたいんだよね。まあ、メンタルの調子が良い時じゃないとダメなのは間違い無いです。

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クラウドファンディングで作られた等身大プンプン。可愛い。
中学生の頃、学校に漫画を持っていくのすら禁止されていた訳ですが、お昼休みに教室のカーテンの中でこっそり読んでは絶望していたな。懐かしい。


いにおさん作品でいちばん好きだけど、いちばん好きな作品だと言いにくいのが『うみべの女の子』です。

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ひとには勧めませんが、わたしは好き。
性的な描写がとにかく多いです。それも超リアルな。映像だとモザイクかかるような細部までしっかりと描かれちゃっている。

中学生の小梅と磯部の身体から始まる関係、なのかな。磯部は小梅のこと好きなんだけどね。小梅も身体は許すけどキスはさせなかったりね。
このnoteを書く前に数年ぶりに読み返したんですけど、やっぱりラストで「うわあああああ」ってなりました。言わないけど。おかげで3連休の初日は家から出られませんでした。全2巻の破壊力。

音楽に例えれば、銀杏BOYZが好きだけど「銀杏おすすめだよ」と軽く友達に言えないような、そんな感じ。人間の醜さとか汚さとか心の底の底まで描かれていて辛くなるんだけど、そこに一筋でも光が射すと安心しちゃうんだよなあ。そうだよね、ってなる。うん、そうなんだよ、小梅。

まあでも繰り返し、お勧めはしません。
実家の部屋でも本棚に置かずに机の奥底に隠し続けていました。本棚だと母が自分の読んでいないものが置かれているとすぐに読んじゃうから。えっちな本を買った男子中学生と同じ気分でしたね、多分。


連載中の『デデデデ 』はキャラクターがとにかく魅力的。

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太眉でヨダレを垂らすおんたんが可愛い。なぜだ。なぜ可愛く見えるんだ。ゲーム大好きでゲーム用語を叫び散らしているのに。はにゃにゃふわ〜なのに。メガネの門出も可愛い。あと、おんたんのお兄ちゃんが良いキャラなんですよね。地獄のミサワみたいな見た目なお兄ちゃん。

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デデデデ は連載中なので、今後が楽しみです。楽しみっていてもワクワクドキドキ!というよりちょっと不安要素が大きめの楽しみ。どういうラストを迎えるんだろうか。新刊買うたびに読むのに緊張しています。


抜粋して紹介しましたがその他にもいっぱい展示されていてファンにはたまらない空間でした。

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ねむきゅんとのトークショーも行きたかった、、!

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浦沢直樹さんとの番組で「最近の浅野さん、水木しげるっぽさを感じる」なんて言われていたのが新作の『勇者たち』。

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ゲゲゲの鬼太郎は、リアルな背景にデフォルメされたキャラクターっていうバランスがたまらないですよね、なんていにおさんも言っていた。なるほど。

わたしの推しは「ややわに」です。
ネーミングからして可愛いでしょ。

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うん、右側のブラパンダも気になるけどね。


ひとつひとつの漫画の内容がもっと知りたいよ!ってひとにはこちらのnoteをお勧めします。あまりにも素晴らしい。順位も分かる。わたしも1位は『虹ヶ丘ホログラフ』ですね。
買って、眠る前に読んで後悔したのをよく覚えてる。翌日学校から帰ると母が落ち込んでいて、何事かと思いきや「置いてあったから読んだんだけどさ…」とのことでした。ごめん、お母さん。


自分がなぜその漫画を読むかって「ストーリーが好き」「絵が好き」「キャラクターが好き」のいずれかかなあと思うんですけど、今回こうしてトークショーを聞いた後で展示を観たことによって普段読んでいる時にはあまり意識しない「技術力」を知れたことが面白くって新鮮でした。
普段からイラストを描いている訳じゃないからこそ、こういう機会がないとなかなか意識出来ないものなのかもしれないね。漫画家さんってすごい。

その中でも、常にこういう描き方をしてみたらどうだろうと挑戦をし続けている浅野いにおさんには頭が上がらないですわ。トラウマも沢山与えられたけど、それでも読むのをやめられない魅力があるんです。


これからも新しい漫画への挑戦、楽しみにしています。



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