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本より経験の方が大事? 〜車中の哲学対話

よく分からないことがあると小学生の我が子に尋ねてみる。
ある朝、学校へ送り届ける車の中。
 
私:お友達に本が好きじゃない子っている?
 
子:いないよ。
 
私:へー、いないんだ、いいなあ。ママは本が好きじゃない人と話したことがあってね。ママが森鴎外という昔の作家の本が好きでハマっていると言ったら、その人は、本を読むより経験する方が大事だと言った。経験はéxperienceのことね。つまり、家で本を読んでいるより外に出ていろんなことを経験する方が大切だって言うのよ。ママはそんな風に考えた事がなかったから、びっくりしてその時は何も言えなかった。あなたがママだったら、その人になんて言う?
 
子:(しばらく沈黙したのち)歩いて、読んで、éxperienceする。
 
私:読みながら歩くということ?
 
子:そうじゃなくて、外を歩いたら何か新しいことを見つける。本を読んだら新しいことが分かる。それがéxperience。
 
私:あ、そうか!本を読むということも、歩くということも、どっちも経験するということなんだね。
 
子:そう。
 
私:なるほど。すごく納得した。ほんとそのとおりね。だからどちらも大事なんだ。その時、その人にそう言えたらよかったなあ。さすが先生!
 
子:先生?
 
私:そう。だってママがどう答えたらいいか分からなかったことを教えてくれたから。ママの先生。
 
 
母が答えに窮した問いを、子供はこうしてやすやすと乗り越えていく。読書と経験は別個のものではなく、読書も経験の一部であり、極めて能動的な行為であるということを、自分なりに理解し、実に簡潔な言葉で言い当てる。子供の力を侮ってはいけないとつくづく思う。
 
車の中は、私と我が子の思考の時間だ。互いの表情が見えず、声のみで応答するから、かえって思考が深まるのかもしれない。車中の哲学対話、お勧めだ。

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