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詩、海、おにぎり

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小見山転子(竹村転子)の第二詩集です。発行元:書肆ブン。22篇の詩を収録。2023年2月10日発行。雑誌『現代詩手帖』に投稿していた詩を中心にしています。
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2023年12月の記事一覧

アクエリアンエイジ

窓辺にはドリームキャッチャー
鞄には神社のお守り
部屋にはお香を充満させて
ちいさく座り込んでいる

ハーブのお茶を飲んでも
なにも解決はしない
いつか全ての生き物は死ぬ
いつか地球は粉々になる

いま書いている文字達は
私のことなど気にも留めなくて
いま文字を書いている私を
誰が造ったのか私は知らない

本を閉じたら
お話は終わるのだろうか
いま、ここにだけ生きている
そうだろうか

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東京

おじいちゃんがいつも連れて行ってくれない公園があった
どうして行ったら駄目なのと訊いたら
あそこには人がたくさん埋まっているから 
空襲で死んだ人達が
それが東京

新宿の京王デパートの大食堂に行くと
美味しいお子様ランチがあって
屋上には金魚と鳩がいて
じゃんけんゲームが十円で
それが東京

可愛がってくれたおばさんの家が
地上げされて
豪華なマンションが建って
入居者が集まらない
それが東

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おなか大切に

お姉ちゃんがダイエットのために
利尿剤をたくさん溜めていて
本当にダイエットのためなのかな
飲み過ぎたらたぶん死んじゃうよね
怖いから全部ビオフェルミンにすり替えちゃった
今のところ気付いてないみたい
ビオフェルミンならたぶん死なないよね
クラスメイトがそう話していた

『おなか大切に』
そうなのかな
毎朝おなかが痛かったのに
高校を一日しか休まなかった
その一日はわざと休んだ体育祭
危うく皆勤

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死んだほうがいい人

全人類に順位をつけたなら
私はぜったい最下位だ
殺人犯や独裁者だって
私よりは上位のはずだ
生きているだけで公害だ
死んだほうがいいはずだ
ごはんを食べる権利なんてないのに
今日もお腹がすいてしまう
お葬式を夢見ながら
今夜も眠ろうと試みる
統合失調症だとお医者さんに言われて
全然びっくりしなかった

そんな話を打ち明けられる友達が
ひとりできた
うつ病のミサトちゃん
同じこと思って生きてきたと

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ごめんなさい

誕生日の前日にヨシノちゃんが自殺したと
誕生日の翌日に知りました
誕生日ケーキを焼いてあげなかったから死んでしまったのかもしれない
ヨシノちゃんのお母さんはそう言って泣きました

具合が悪いとは知っていたのです
自殺について話し合いさえしていたのです
死にたい
死にたい
繰り返し送られてくるメールに困惑して
いつしか私は返信を疎かにしていました
ご家族と一緒に暮らしているからと
病院にもかかって

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京王線

素晴らしく異次元とも思えるライブを吉祥寺でみて
お酒を呑んでお喋りもして帰る
土曜日の夜だから電車は空いていて
座ることができて楽だねと
ぼんやり車内広告を眺めながら揺られる
明大前に着いて次の次に来る各停に乗ろうと
待っているホームでは特急が発車待ち
さすがにそれはぎゅうぎゅうで
発車ベルが鳴るともっとぎゅうぎゅうに
扉が閉まる寸前
突然のアナウンス
数駅先で人身事故が起きたらしい
ほんの七分ほ

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冬至

夕暮れの陽射しが
ぼんやりカーテンの色を変えていく
死んでいった人たちの想い出が
綺麗なのはなぜだろう
完結したものであることの
綺麗さなのかもしれない
いやだな
欠点だってたくさんあった
理不尽なことも言われた
仲がわるくなったこともあった
死んでいった人たちではなく
かつて生きていた人たち
窓を開ければ一瞬で繫がってしまう
私はまだ飛び去ることはしたくない
綺麗さとは程遠くても
生きていく

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一月三日

大晦日に夜更かしをするから
お正月はいつも具合がわるいなあ
いや寒い時期はいつも具合がわるいよなあ
いやいや去年は夏も具合がわるかったよなあ
アフリカ産のルイボス茶を飲みながら
一月三日の夜に早くも振り返った
また夜更かしをするつもり
もしちょっとお腹がすいてきたら
パックごはんでも食べればよい
夜更かしできなかった子供のころは
一日が粒
今日と明日とはくっきり違って
お粥のようにくっついてはいな

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おやすみ

君があんまり静かに眠っていると
生きているのかどうか心配になって
寝息を確かめる
眠りは死ぬ練習だと言う人もいるけれど
生きていくための休息だよ
だから
夜に起きていると
ちょっと狂う
それが楽しいときも
苦しいときもある
今夜は楽しくて
コーヒーまで飲んだ
夜明け迄は起きているつもり
お隣さんがこんな時間に帰ってきた
ばたんとドアが閉まる音
もうじき新聞配達もやってくる
バイクの灯にほっとする

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サウダーヂ

久しぶりに会った母と
下北沢のレトロ雑貨屋に入ったら
昭和の歌謡曲が流れていて
母は涙ぐんだ

植物の甘い匂いで夏に気付くとき
幼い頃行ったプールのラムネ売りがよぎって
あのおじいさんはもう存命ではないであろう
瓶のビー玉がどうしても取り出せなかった

母と折り合いをつけられないことも
プールが冷たすぎておなかを壊したことも
あんな時代のことですら
ALWAYS三丁目の夕日になっちまう

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輪投げぼっち

皆で大きな一冊の本を書いていると
異国の先輩詩人が言っていた
それに勇気づけられて書いてきたけれど
たとえば私に忘れられた私の詩も
その本の片隅に載っているのだろうか
一等をとって褒められたことはなくて
輪投げで一等のでっかいぬいぐるみを
とって帰ったら邪魔になるねって
毎日掃除のたびに耳を引っ張られて
首が少し曲がってしまったキリン
悲しいという詩を書いたような気がする
引越しのときにノートもキ

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大好きな映画

詩を書かなくては死んでしまう
それは幻想だよ
食べ物と飲み物と着る服くらいあれば
生きているはずだよ

瀕死の人が
気力を保つために書く
そういう場合以外には
書かなくては死んでしまうなんて
ないよ

それではなぜ書くのだろう
お金をもらっている訳でもないのにね
書きたいから書く
それだけ
なぜ書きたいのだろう
わからない

急に思い出した
昔観た大好きな映画
『心の杖として鏡として』
精神

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ノートたち

古い段ボール箱を開けていたら
何冊ものノートが出てきた
どれも一文字も書かれていない
薄い罫線だけがおとなしく並んでいる

授業の記録をとる以外には
書くべきことを持たなかったのだ
その頃の私は
何もできないと固く信じていた

君はどんなふうに
生きても
死んでも
いいんだよ

今ならそう言ってやれる
昔の私と似ているが
明らかにもう違う筆跡で
詩を書くことができる

禁を破るために
まず

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物語

人が劇的に死ぬ映画を観て
面白いと思うのはなぜだろう
爽快感すらおぼえる自分が確かに居る
フィクションだからだろうか
そうだろうか
史実にだってそれを感じることはある
もう過去のことだからだろうか
そうだろうか
違うだろ
現在進行形で
物語化は進んでしまう
そこに落とし込まないと
生きてゆけないかのごとく
親しい人にはぼんやりだっていいから
生きていてほしいのに
でもそれが叶わなかった時には
やは

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