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【短編小説集】日々の欠片

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オチはないけど、それでいい。 日常にあったりなかったりするような、あったらいいなと思えるような、2000字以内の一話完結ショートストーリー集。 ※一部、過去に公開した作品に加…
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2023年8月の記事一覧

【短編小説】8/31『おっちゃんと彼』

【短編小説】8/31『おっちゃんと彼』

 意中の人にお呼ばれされて、ウキウキしながらとある駅に来た。待ち合わせの10分前に彼と合流。
「あっ、おはよう〜」
「おはよう。ごめんね、休みの日に」
「全然えぇよ、大丈夫。楽しそうやん、インテリアコーディネート」
「ツレの中でお前が一番センスあるな一と思って」
「やだ嬉しい〜」
 なんてデート気分で彼の新居まで歩く。
 古い空き家を格安で買って自分でリフォームしてるってハナシを聞いてたけど……。

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【短編小説】8/30『林の中のなにか』

【短編小説】8/30『林の中のなにか』

 田舎暮らしに憧れていたというパパが、都会から引っ越すと言い出した。
 転校するのは嫌だという僕の主張には聞く耳も持たず、どんどん準備を始めている。
「ママぁ」
「私も反対~」
「えー。ママがいなかったら誰がご飯使ってくれるのさー」
 パパの一言に僕は頭を抱える。
 イマドキ言うかな、そういうこと。不用意な一言で夫婦ゲンカ、果ては離婚話に発展、みたいなまとめ記事、見てないんだろうか。
「自分の都合

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【短編小説】8/29『包んで食べたいエトセトラ』

【短編小説】8/29『包んで食べたいエトセトラ』

 遅い夏休みを取った。結婚してから初めての夏休み。
 彼と同じ期間の一週間、せっかくだしお家でまったりしようと決めた。
 お休みは明日からなんだけど、今日は彼の帰りが遅いらしい。急なトラブル対応が入ったって。帰宅時間も不明だから夕飯はいらないとのこと。
 残念だけど丁度いいから、夏休み中の食材の買い出しと仕込みをしてしまおう。
 そして、今日の自分の夕飯は昨日の残り物にしよう。
 あ。明日のブラン

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【短編小説】8/28『奏でる指揮官』

【短編小説】8/28『奏でる指揮官』

 【指揮官面接会場】と表示されているドアを開け、部屋に入る。
 30センチ角の白い線が縦横均等に並び、正方形の模様をなしている。線は照明らしく、部屋全体に張り巡らされた青い壁と床に反射して、部屋全体がぼんやり青白く光っている。
『中央のテスト用フィールドにお立ちください』
 壁の一部から声が聞こえた。ドアの正面にある大きな窓の外で、担当官が喋った言葉がマイクを通し室内に響いていた。
「は、はい」

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【短編小説】8/27『冷たく、甘い。』

【短編小説】8/27『冷たく、甘い。』

 初めてのデート。
 いよいよ会話も尽きてきて、さてどうしようと考えていたら、
「そこのオフタリさん、おいしいジェラートはイカガ?」
 と声をかけられた。
 舗装された川沿いの道端に、可愛らしい移動式店舗。英国出身と思われる背の高い男性が中から笑顔でこちらを見ている。
「食べる?」
「うん、食べたい」
「バニーラ、チョッコレイト、ストゥルベリー、ドレがいいデスかー?」
「じゃあウチ、ストロベリー」

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【短編小説】8/26『白紙のパズル』

【短編小説】8/26『白紙のパズル』

 目の前にばら撒かれた沢山のピース。
 まずは定石通り、外枠から作っていく。どこか一辺が直線、または二辺の直線と角が丸みを帯びたピースを探す。隣合って同じ作業を繰り返す彼女を、たまに励ましながら。
 枠となりえるピースがある程度集まったところで、僕はパズルを組み立て始めた。彼女には引き続き枠のピースと、ある程度形状が類似しているピースの選別をしてもらう。
 白、白、白。どのピースもすべてが白い。

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【短編小説】8/25『在りし日の袋麺』

【短編小説】8/25『在りし日の袋麺』

(おっ、新製品……!)
 スーパーの陳列棚に見知らぬ顔(パッケージ)を見つけてニヤリ。
 とりあえず2個、かごへ入れる。

 僕の日課はスーパーとコンビニの【乾麺】棚をパトロールすること。
 僕の趣味である“即席袋麺のパッケージ収集”のための活動だ。

 1個は袋麺に入ってる具材と調味料だけで調理して、写真撮影と味のレビューを書く。もう1個は手軽に買える食材を足してアレンジし、撮影とレビューを。

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【短編小説】8/24『そうして、運命の扉が開いた。』

【短編小説】8/24『そうして、運命の扉が開いた。』

 洗面所に歯ブラシが二本、並んでいる。
 毎朝毎晩見るたびえへへってなる。ようやく一緒に住めるようになったんだなぁ、って。

 結婚して籍は入れたけどタイミングが合わずになかなか新居が決められず、しばらくの間“別居婚”状態になっていた私たち。周囲からは関係性が危ないんじゃないかとか偽装婚だったんじゃないかとか、いい加減な噂を流されていた。
 面白おかしく言いたいだけの人がたくさんいるんだなって実感

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【短編小説】8/23『夕涼み』

【短編小説】8/23『夕涼み』

 道路に水をまくといろんな生き物が集まってくる。
 鳥、犬、人間のこども、たまに大人。
 縁台でも出して冷えたジュースとか缶ビールとか、氷水に付けたトマト、串に刺したキュウリでも出したら金とれんじゃないかってくらい。ホントにやろうかな。営業許可取ってないと罰せられるかな。
 とりあえず自分がくつろげるように、庭に出してたキャンプ用の折り畳み椅子を玄関先に出して座ってみる。おぉ、いいねぇ。あとは、水

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【短編小説】8/22『想い出の町並み』

【短編小説】8/22『想い出の町並み』

「精が出るねぇ」
「あ……はい」
 ミアノに声をかけられたモエアは、作業の手を止めた。ふたりの視線は作業台の上にあるジオラマへ注がれている。
「三ヶ月だったっけ、滞在期間」
「そうですね。滞在ってほど、地上にはいませんでしたけど……」
「そうなんだ」
「生命が住む星の記録は、初めてだったので……」
「あぁ……」
 少しの沈黙ののち、モエアがジオラマ作成に戻った。
「……綺麗だね」
「はい……」
 

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【短編小説】8/21『二足歩行の神様』

【短編小説】8/21『二足歩行の神様』

 地面から降る雨を、子供や犬、野鳥が浴びている。それを眺めて微笑む周囲の大人……を眺めている俺。ネクタイはいっそ取ったほうがいいくらい緩めてる。
 俺があそこに乱入したら危ねーやつ扱いされっかな。されんな。俺でもあいつやべーって思うもんな。
 木陰とはいえ風は生ぬるく、噴水による打ち水効果を期待するには距離が遠い。
「あー、帰りてぇ」
 外回りに出ると言って公園でサボってる俺は、照りつける太陽を睨

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【短編小説】8/20『僕らはマチの迎撃隊』

【短編小説】8/20『僕らはマチの迎撃隊』

 ひゅんひゅん飛んで、行けー! っていって、こんなに楽しい仕事、他にないよね⁈ ってキミは言うけど、それはキミに【適性】があるからで、僕にとっては苦しくて、辛いばかりなんだ、【迎撃隊】ってのは。

「坊ちゃーん、朝ですよー。起きてくださーい」
 ドアの外から声がした。
「うぅ……」
 重たい瞼をこじ開けて“坊ちゃん”こと僕は起きる。机の上に散らばっていた設計図と部品類を鍵付きの引き出しに入れてから

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【短編小説】8/19『残像』

【短編小説】8/19『残像』

 カメラを手に道を行き、時折立ち止まって撮影をする。

 明け方の澄んだ空気。
 朝ご飯を食べる野鳥。
 車が走っていない道路。
 遥か向こうまで全部青の信号。
 ビルの反射窓に映る太陽。
 熱に焼かれて陽炎が立つ地面。
 追いつけない逃げ水。
 歩道橋から見る夕日。
 誰かが住んでいる窓の灯り。
 安全地帯のように光るコンビニ。
 星が見えにくい空。

 何気ない街の風景。
 もっと色々な景色を

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【短編小説】8/18『春告鳥が彼を呼ぶ』

【短編小説】8/18『春告鳥が彼を呼ぶ』

 僕はいわゆる【万年補欠】だ。
 特に強いわけじゃない高校の、部員がほぼ全員レギュラー入りできる人数しかいない野球部で、僕はずっと補欠のまま。
 努力も練習もしてるけど、実力が伴わない。自覚はある。
 両親は僕のことを応援してくれているし、いつか試合にも出られると思ってる。でも僕本人は、補欠のままでもいいと思ってる。試合に出たり勝ったりするのが目的で野球部に入ったわけじゃないから。

 三度目の夏

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