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【感想】怪物 著:佐野晶

※ネタバレ含みます

6/2に公開される映画『怪物』のノベライズ版です。かなり読みやすい。湊かなえさんの作品が好きな方だったらこちらも好みかもしれません。

映画のキャストに安藤サクラさん、瑛太さんがいることしか前情報は把握していませんでしたが、早織の台詞が安藤サクラさんの声で容易に再生されました。ぜったいかっこいい…!

「豚の脳を移植した人間は?人間?豚?」シングルマザーの早織に、息子の湊が投げかけた奇妙な質問。それ以降、不審な行動を繰り返す湊に、早織は学校でのいじめを疑うが……。
母親・教師・子供の3つの視点から語られる物語に潜む"怪物"の正体とは。
日本を代表するストーリーテラー・坂元裕二と映像作家・是枝裕和が初めてタッグを組んで描く、圧巻の人間ドラマ、完全小説化!

文庫本背表紙 内容紹介より

これ、作中でもたびたび怪物や化け物といったワードが飛び交うんですが、その正体というか正解みたいなものははっきりとは明言されません。読んだ人によって解釈が変わってきます。

わたしが個人的に受けた印象としては、自分が見聞きしてきたことだけが100%真実だと疑わない傲慢さ、自分の言葉が人を傷つけるなんて想像することさえない浅はかさ、なにかを守るために他者を犠牲にすることを厭わない冷酷さ、性的嗜好を隠すために嘘をついて他人を陥れる弱さ…

そういった人間のどろどろとした闇の部分がコミュニティ全体…社会をじわじわと汚染していくような陰鬱な雰囲気が本作にはあり、決して目には見えないそれらを"怪物"と呼ぶのかもしれないなと思いました。

しかし、ここで述べておきたいのが、そういった人間の闇の部分には同時に光ともいえる部分も相反して存在しているのです。

本作でいうならば、自分の息子の言葉をひたむきに信じる母親の愛、不器用なだけで本当は生徒を大切に想っている教師の優しさ、自分の守りたいものを守り通すと決めた責任感、ただ好きになった人との関係を大切にしたいという純粋な恋心…といったものでしょうか。

よく『正義は人の数だけある』と言いますがまさにこれで、それぞれが誰かを想って戦っているのは間違いなくて、でもそれゆえの言動が知らないうちにその相手を傷つけてしまっていたり、他の誰かを犠牲にしてしまったりするんですよね。悪意のありなしに関わらず。

たとえば早織の息子・湊は自分が同性愛者であることを隠すために担任教師の保利を利用しますが、まだ小学生で先を見通す想像力も乏しい湊に悪意はありませんでした。もっといえば、同性愛だって悪いことじゃありません。

じゃあこの場合の悪は?正義は?

湊が起こした行動の結果だけを見れば保利は教職を追われることになってしまったので悪だけど、そこには依里(湊のクラスメイトで湊の好きな人)への純粋な想いがあるわけで、それを隠す理由も『普通』の幸せを願う母親の愛に応えられないという重圧からだったりします。

でも早織からしてみれば最近言動がおかしい息子・湊が生きていてくれさえすればいい、そして願わくば結婚して子どもを育てて『普通』に楽しく幸せに暮らしていってほしいという親心なわけで、悪意なんてものは微塵もありません。結果その想いが湊に影を落とすことになろうとも。

そして保利は保利で一方的に湊を悪、依里を正義として捉えていました。それゆえに湊の苦しみに気づくことができなかったし、護ろうとした依里に対しては「男らしく」という言葉で心に傷を負わせました。しかし保利にも悪意はありません。あるのは教師としての責任と生徒を想う情だけです。

悪か正義かの答えはそれを受け取った人間がどう捉えるかがすべてで答えはひとつじゃないと思います。もちろんこの作品の中でも同様で、だからこそみんなの報われない想いたちががんじがらめになっていく様子が切なかったです。

この作品では誰の視点で読むかによってそれが大きく異なり、最初が早織(母親)視点でストーリーが展開していくので、どうしても保利(教師)が腹立たしくて不気味な存在に思えてしまいますが、そのあとの保利視点を読むと「保利…おまえ可哀想すぎるやろ…」と同情してしまいます。

これって現実世界でもありえる話で、ひとりの視点から見た話だけを聞いてすべて分かった気になっちゃいけないんですよね。

いろんな人の話を聞いて、自分の頭の中でそれらをきちんと咀嚼して結論を出さなければならないよなと改めて強く思いました。

放火事件や依里の家庭環境、校長先生の異様な言動などここには書ききれなかった要素も多々ありますので、気になった方はぜひ読んでみてくださいね。

思ったことをバーッと一気に書いたので読みづらい文章もあったと思いますが、ここまで読んでくださってありがとうございました。

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