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外資系企業の人員削減についてーおまけ

全4回にわたって外資系企業における人員削減について書いてきました。興味のある方は下記をご参照ください。

今回はちょっと面白いニュースを見つけたので、追加で書いてみます。このニュースは今後万が一退職勧奨を受ける人も参考になると思います。なぜなら「Googleの退職勧奨のパッケージが公開された」からです。

退職勧奨:Googleの場合

最初このニュースを見た時、意味がわかりませんでした。こんなものは人事部と会社の経営陣、退職勧奨を受けた人にしか通常わからないので、表に出てくることはありません。それがどんな理由かはっきりと出てきてしまいました。どうも退職勧奨を受けた社員が怒って「東京管理職ユニオンに相談し、グーグル・ジャパン・ユニオンを結成し」、記者会見を開いて退職勧奨の内容を公表した、ということです。

退職勧奨の中身

まずは退職勧奨のパッケージ内容を見てみます。全文が記事の中にあるので大事なところだけ取り上げます。

基本パッケージ

90日の通知期間中給与が支払われる、と書いてあるので、ベースのパッケージとして3ヶ月分の給与がもらえるということです。通知期間というのがよくわからないですが、おそらく90日の間に退職勧奨を受けるか受けないか決めて良い、ということなのだと思います。以前の記事で書いた通り、通知を受け取ってからは通常業務からは外されるので、今日サインすれば残りの90日の給与をそのままもらえるということになります。

追加のパッケージ

勤続年数に応じて追加パッケージが与えられ、さらに早期署名支払いというのが与えられるようです。勤続年数1年ごとに1ヶ月分の基本給が与えられるとのことで、仮に10年勤続した人だと上記の3ヶ月分のベースパッケージに追加で、さらに10ヶ月分の給与がもらえるということです。

さらにさらに、今だけお得、とばかりに14日以内に退職勧奨に合意して退職を受け入れると、追加で9ヶ月分(!!!)の給与がもらえます。

整理すると、

  • ベースで3ヶ月

  • 勤続1年につき1ヶ月分。10年勤務なら10ヶ月分

  • さらに早期署名特約で14日以内のサインは9ヶ月

  • 10年勤務の人は合計22ヶ月分の給与がもらえる

というものです。

その他のパッケージ

  • 有給休暇:使っていない有給休暇は買取をしてくれるようです。

  • 健康保険:会社を辞めると健康保険組合から脱退して、保険証も返さないといけません。そのための健康保険料を32万5千円払ってくれます。

  • ボーナス:2022年のボーナスはすでに80%が支払われていて、残りの20%も支払われるようです

  • GSU: 株の付与のことだと思いますが、これもそのまま受け取れるようです。RSU (Restricted Stock Unit)と呼ばれるものだと思いますが、通常100株など付与されて、1年いたら20株、2年いたら20株、などと在籍期間に応じてもらえる株のことです。通常会社に在籍していないと受け取れないのですが、退職した場合ももらえるようです。

その他、再就職支援のサービスを6ヶ月間受けられたり、日本の労働ビザを持っていない人は入国管理についてのアドバイスやサポートを受けられたり、メンタルヘルスのサポートを6ヶ月間受けられたりとあるようです。

パッケージ内容の評価

これは、かなり条件が良いと思います。「さすがグーグルさんや」といった感じです。こんなに良い条件は、あまり聞いたことがないです。
月額給与の半年分ももらえたら超ラッキー、という感じで個人的には考えていましたが、14日以内に退職を受け入れるだけで合計12ヶ月分ももらえるというのは驚愕です。つまりまるまる1年間仕事をしなくても、今までと同じ収入がえらえるということです。加えて、失業保険も受け取る権利があります。

もし仮に私がこのパッケージを提示されたら、迷わずサインします。

勤続年数が短くても今すぐにサインすれば12ヶ月分の給与がもらえるのであれば、例えば1年間大学院に通うなど、スキルを上げるにはとても良い機会です。もっと勤続年数が長い人であれば、海外留学してMBAを取る、などということもできると思います。

退職勧奨パッケージから学べること

今回のパッケージ内容からは、今後外資系企業で働き万が一退職勧奨を受けることになるときに備え、色々と学べることがあります。

見落としがちな交渉材料を覚えておく

何ヶ月分の給与がもらえるのか、などと月額給与のことだけに目が行きがちですが、見落としがちなのが健康保険です。

退職すると会社が加入している健康保険からは脱退することになるので、国民健康保険に加入しない限り無保険になってしまいます。次の就職先がすぐ見つかるなら、新しい会社で健康保険に加入できるので問題ないですが、すぐに転職が難しい、間を空けるつもり、という人は国民健康保険の保険料を払わなければいけないです。Googleのパッケージでは、その分を何ヶ月分か負担しますよ、という申し出のようです。これは交渉内容としてとても良いものだと思います。ベースパッケージの月額給与を増やしてほしい、というのは難しいかもしれませんが、会社のせいで退職を受け入れるんだから、無加入になてしまう健康保険料ぐらい払ってよ、というのは会社も断りづらいと思います。

有給休暇も同様です。買い取ってもらうか、最後に有休消化して退職日をずらしてもらう、というのは交渉の材料です。決してそのままにしないようにしましょう。特に有給を消化して退職日をずらしてください、というのは会社としても追加の費用がかかるものではないので、すんなり受け入れられる可能性が高いと思います。

あとはボーナス、RSUの支払いです。もしボーナス支払いがある会社で、毎年一定額のボーナスがもらえているような人であれば、その権利を主張するのは悪くないと思います。会社のせいで辞めることになって、それがなければもらえるはずだったボーナスは払ってくれるんですよね、という交渉です。

RSUは仕組みが少しややこしいです。これは株が付与される権利をもらう、というもので、例えば100株のRSUをもらう、といった場合、今すぐ100株が証券会社の口座に入るわけではありません。あくまで株が付与される権利だけを持っている状態です。それで1年在籍すると、初めて20株が証券会社の口座に入って、このとき自分のものになります。こうして在籍期間などに応じて株が付与される仕組みです。これも退職するつもりはなくて、会社都合で辞めるだけで、本来ならそのまま在籍してもらえるはずのものだから、退職に際して耳をそろえて払ってほしい、と言えると思います。

公表することのリスクは?

今回のニュースで気になったのは、労働組合に加入してパッケージ内容を公表してしまった人たちのことです。もちろん労働組合に加入するのは労働者の権利ですし、自由だと思うのですが、公表してしまったのはどうなのだろうか、と気になりました。

退職勧奨を行う会社の立場で困るのは、社員同士が情報を交換し合ってパッケージ内容をお互いにシェアしてしまうことです。そうすると会社がどこまで交渉で譲歩してくれるのか、ということがバレてしまい、交渉の場で不利になるからです。こっそりとやる分には会社には分からないですし、会社側もある程度情報がシェアされているというのは理解していると思います。それでも一応牽制する目的もあって、通常はパッケージ内容は機密情報だから公表しないでください、という文言が入っていると思います。

その条件を破って公表してしまったのは、会社側からは退職勧奨だったけれでも強制はするものではないので、やっぱり取り下げます、などと言われると、本来もらえるはずだったパッケージ条件が変えられてしまうかもしれません。もちろんどうしても会社に残り続けたい、ということであればそれでも構わないかもしれないですが、であれば退職勧奨は受けません、と会社に伝えれば良いだけです。もし少しでも退職について前向きに考えているのであれば、ちょっと最初の行動としてはあまり良くなかったかもしれない、と思いました。

最後に

具体的な退職勧奨の条件がここまで大っぴらに公表されたことはなかったので、この情報はかなり貴重なものになると思います。と同時に、今後退職勧奨を行う会社にとっては、かなり厳しい状況になったと思います。これまでどれぐらいのパッケージ内容が標準なのか、比較するものが会社員個人にはありませんでした。それがここまではっきりと公表されてしまっては、退職勧奨の交渉の際に、「Googleではいくら出していたではないか、それに比べて内容が低すぎる」などと反論される可能性があります。逆に、退職勧奨を受ける社員にとってはこんなに良いニュースはなく、交渉の強力なツールをもらえました。

今まさに退職勧奨を行っている会社の担当者は、涙目だと思います。






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