第11章⑧【江戸時代タイムトラベラー】パラレルワールドから戻る6/19/2019

助兵さん江戸時代タイムトラベラー[令和元年6月19日(水)]　

自称江戸時代タイムトラベラーの助兵さん。
変な人物であり、行動は３歳児というおじさんは、まるで着ぐるみのフナッシーやひこにゃんレベル、こんなに面白いおじさんに会ったのは生まれて初めてである。

パラレルワールドを信じない友人たちは、多分、なんらかの病気に違いないから、仕事以外はあまり拘らないようにと注意されている。

今日も、和やかな事務所の中で、くだらないことで笑っている。
事務員さんは、ゴホゴホ咳をしていて、調子が悪そう。
「喘息なんですよ、映らないから大丈夫よ」と言いながらも、辛そうだった。

能天気な助兵衛さんも、さすがに心配をして、
「じゃあ、3人で今から寿司屋に行って元気をもらおう」
なんて馬鹿なことを言っている。
寿司で咳が治ると本気で思っているのである。

「こまゾロさん、いつもの寿司屋に行こうよ。ほら見て、こんなすごい割引券あるんだよ」
助兵さんの持ってきた割引券の寿司屋には、もう3回行ってる。
３回ともサービス券を出して、まずはサービスで無料の寿司を食べるから、とっても恥ずかしいのだ。

事務員さんは、ゴホゴホ咳をしていて、今日は早めに帰るとのことで、どうしてもサービス券を使いたいと駄々をこねる助兵さんに、事務員さんも、
「一緒に行ってあげてくださいな」
と苦笑いしているので、仕方なく2人で行くことにした。

寿司屋の扉を開けると、
「いらっしゃーい」
と元気よく店主が迎えてくれる。
助兵衛さんは、暖簾をくぐって
「こんちわ」
と言うと直ぐに、笑いながら大きな声で
「今日もサービス券持ってきたよ」
と3個サービスの券をひらひらさせて、店主に渡すのである。
その度に、同行者として、とっても恥ずかしい思いをするのだが、ここの店主さんは出来た人で、
「あいよ、いつもありがとね」
と子供のような無邪気な大人を丁寧に迎えてくれる。
店主さんは、カウンターで、小学生のガキンチョのような馬鹿馬鹿しい話をして、大笑いしているのを、笑顔で包んでくれている。
助兵衛さんにとって、とっても居心地のいい寿司屋のようだった。

しかし、毎日のように早々に仕事を終わらせて、明るいうちから寿司屋や割烹行ったりするお金はどうしているのか？
気になったから尋ねてみた。

そうしたら、助兵衛さんは、嬉しそうに話し始めた。

数ヶ月前まで一緒に仕事をしていた、会長、すなわち、助兵さんより以上にセクハラ、パワハラ、オヤジの最低最悪な会長の話である。
助兵さんは会長のことが大好きなようで、会長の話をするときは、より楽しそうである。
「会長さんがね、会社を出る時に、沢山のお金を残していってくれたんだよ。ほら、事務所に金庫があるでしょ。その中から毎日出すんだよ。それを使って、食べたり、飲んだり、温泉行ったりしてるよ。こんな美味しいもの食べられるのも、会長さんのお陰なんだよ」
と、会長を思い出しているのか、助兵さんは天井を眺めながら微笑んでいた。
「会長さんのこと、感謝してるんだ？」
って尋ねたら、
「そりゃあもう、感謝しているよ、会長さんは、私の神様みたいなものだよ。大大大好き！」
と美味しそうに大トロを頬張っていた。
確かに、毎日、大トロ食べさせてくれる人なら、大好きになるのかもなあなど、考えた。
そう言えば、ラインのやり取りでも、いつも、温泉に行ってるとか料亭にいるとか、また車買っちゃった、なんて呑気な内容ばかり送ってくるよなあ。

何だか、いつも楽しそうなので、
「助兵さんは、何か悩みってないの？」
って聞いたら、
「悩みが無いのがぁ、悩みなのだぁ」
とくだらない答えをしてくる。
「まじで、悩み無いんだね」
と言ったら、
「うん、生まれてから悩むってしたことないよ。悩みのある人になってみたいなあ。どんな気持ちなんだろう」
と頬杖をついて、ウニを頬張った。
「悩みがある人は、死にたい気持ちになったり、この世の終わりと思ったり、物事が手につかなくなったり、そう言う人が世の中にはたくさんいるんだよ」
って教えてあげた。
その後も、悩みがある人の話をしてあげたら、助兵さんは寿司を頬張りながら、
「ふむふむ」とよく聞いていた。
「いつか、悩みのある人になってみたいなあ」
と言うので、
「悩みが無い方が幸せなんだよ」
って言ってあげたけど、悩みが無いのが悩みも、悩みのうちでは無いかって思った。

ここのお寿司屋さんはいつでも明るくて賑やかで、お寿司も美味しいし、ここの大将は優しくて、居心地がいいから、また来たいなあって思う。