樹海ミステリー 生を紡ぐ森と生を終える者 第二話
【神秘の森、富士の樹海 後編】
(前編よりつづく)
【富士の樹海(青木ヶ原樹海)とは?】
富士の樹海と聞くと、皆さんはどのようなイメージを持つだろうか?
「自殺の名所」「心霊スポット」というイメージだろうか。
もしくは、樹海の都市伝説を思い浮かべる人もいるだろう。
「樹海に入ったら二度と出てこられない」
「コンパスが狂って使えなくなる」
「女性のすすり泣く声が聞こえてくる」
「死神を目撃した人がいる」
インターネット上でもこのような話題が上位を占めている。
はたして「富士の樹海」、その真の姿を知っている人はどれくらいいるのだろうか。
まずは富士の樹海の紹介を進めていこう。
富士の樹海である青木ヶ原樹海は、富士山の北西に位置する森で、山梨県富士河口湖町・鳴沢村にまたがって広がっている。
木々が風になびく様子が波のように見えることから「樹海」と名づけられたという。
世界文化遺産でもある富士山の麓に広がる森は、富士五湖と富士山からなる絶景でもある。
パワースポットでもある富士山の麓で、森林浴をするのにも最高の場所だろう。
(富士山のパワーを体に受けたい人は樹海を訪れてほしい)
近くにはキャンプ場や公園もあり、青木ヶ原を通り抜ける遊歩道も整備されている。
平日祝日を問わず、世界中から多くの観光客が集まる、日本を代表する観光地でもある。
また、樹海を普通に楽しむ催しも行われている。
西湖コウモリ穴・クニマス展示館が併設されている『西湖ネイチャーセンター』では、富士河口湖町公認ガイドと行く青木ヶ原散策ツアーがある。
ほかには、『冨士エコツアーサービス』を探してみるのもいい。
青木ヶ原樹海、洞窟探検ミステリーをはじめ、
火口巡りツアーや富士登山挑戦コースもあるため、樹海探索を考えている人は、まずはこのようなツアーに参加するのもいいだろう。
【ファンタジー世界のような景色】
富士山の麓に広がり観光地としても有名な富士の樹海。
その反面、多くの人が『死』を連想する恐怖の森であることも事実だ。
しかし、私が初めて樹海に足を踏み入れた際の正直な感想、それは「なんという美しく幻想的な世界なのだ!!」であった。
今まで見てきたどの森とも違う景色が広がっていたのだ。
溶岩の群れの中でいびつに根を張り不気味に佇む木々の姿。
昼なのに薄暗く苔の敷き詰められた地面。
現実の世界とは思えない、ファンタジーの世界としかいいようがない、そのように表現するしかない景色が私の目に飛び込んできたのだ。
【樹海の地面】
木々の根がいびつに成長する理由は樹海の地面にある。
通常、木は地面に根を深く張り土から養分を得る。
しかし、樹海の地面はほとんどが溶岩でできているため土が少なく、地中深くにしっかりと根を張ることができない。
そのために行き場をなくした根の姿は、巨大な蛇が溶岩の上を蠢いているかのようにも見える。
おどろおどろしいその姿は、ゲームやアニメに出てくる魔女の森を思い浮かばせた。
溶岩の上で深く根を張れない木々は安定せず、ある程度まで成長すると倒れてしまう木がほとんどである。
樹海を探索している際、
「メキメキメキメキメキ!! ドーーーーーン!!!」という
ゴジラさながらの、木の倒れる音を耳にすることもあった。
細い木や不安定に生えていることが多い。
そのような樹海内での死を決意した人々は、その命を絶つのに適した木を探して徘徊するのだろう。
【迷宮のように入り組む森】
樹木が多く深い森であるため、少しでも道を逸れると元の場所に戻ることが難しい。
360度同じ景色、同じ色。
道から逸れて5メートルほど進み、その場で目を瞑って三回転もすれば、来た道がどこかわからなくなってしまう。
俗説でいわれている「一度入ったら出られない森」の由来はここからきている。
樹海の中は、真っ直ぐ進むことができない。
少し進んだと思ったら、目の前に壁のような溶岩が立ち塞がる。
迂回をしようと避けると大きな倒木が道を塞ぐ。
そんなことを繰り返しているうち、元の道に戻ってしまうことなどざらにある。
ゴツゴツとした溶岩といびつな根で作られた地面は、空洞部分が多く凹凸も激しくなっている。
それを隠すように落ち葉で覆われてしまうと、一見すると普通の地面なのだが、油断をしていると「ズボッ!!」と踏み抜いてしまう。
大小含めた天然の落とし穴がいたるところに仕掛けられている。
実際に私も何度も転げ落ちている。
探索する際は登山用のブーツ(足首まで守られているもの)を履かないと、足を痛めて動けなくなってしまう可能性が高い。
足を怪我して遭難してしまい、自力での脱出が困難になり、亡くなった人も実際にいる。
遭難して助けを呼ぼうと大声を出す。しかし、声が響かないことに気が付く。これもまた樹海の特徴だ。
森の奥にいることもその理由だが、一番の理由は、溶岩が声を吸収してしまうのだ。
音楽室の壁に多くの穴があいていたことを思い出してほしい。あの吸音の壁と同様に、表面に無数の穴があいた溶岩は音を吸収してしまうのだ。
以前参加した樹海ツアーで、真っ暗闇の洞窟で「大声で叫んでみな」と言われたことがある。
言われた通り溶岩の壁に向かって「わーーー!!」と叫んだのだが、声は反響しなかった……
洞窟の中なのに、『外で叫んでいるのか?』と思えるぐらい声が響かなかったのだ。
もしも樹海の奥深くで動けなくなってしまった場合はどうすればいいのか?
樹海の中で怪我をして動けなくなると生存確率はグッと低くなる。
キャリアにもよるが、私のスマホでは樹海の奥で電波を拾うことができなかった。
探索をする際には、簡単なことえであるが専用のGPSを持参するなどして、何かあった際の対策をしっかりとっておくことが身を守ってくれる。
樹海一帯が日本の文化財保護法により、天然記念物となるため、自然公園法における特別保護地区に指定されている。
不用意に林内に立ち入り樹木等を損傷させた場合は、それぞれの法律に違反することになるため注意が必要である。
現在、樹海探索は規制がとても厳しくなっている。安易に立ち入ると法に触れることもある。夏の観光シーズンを迎え、探索を考えている方は、公式のツアーに参加して樹海の知識を深めていくのもいいだろう。
個人での探索を検討しているならば、事前のしっかりとした情報収集が必要だ。
ー次回 8月9日金曜日 公開予定ー
文・写真:ココペリコ
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