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2023年5月29日 小松庵銀座 森の時間|長野県 黒姫山麓蕎麦農場 石田正士さん

5月29日(月)銀座ギャラリータイム「森の時間」は、現在小松庵で提供し大変好評いただいている黒姫蕎麦の生産者、石田正士さんにお越しいただきました。
石田正士さんは長野県の北、野尻湖のある信濃町出身です。石田さんの本業は東北電力のもとで水力発電の仕事に携わる建設業を営み、その4代目になります。そんな石田さんがなぜ蕎麦畑を始めたのか、興味深いお話を聞くことができました。

黒姫山と野尻湖

野尻湖は黒姫・戸隠・妙高・斑尾・飯綱という北信五岳と言われる5つの山に囲まれ、この山々を外輪山としてできたカルデラ湖です。北信五岳山麓は標高300~800メートルあたりに位置し、豊かな森と山から湧き出す水、湿度の低い高地の風土によって育まれる瑞々しい山菜や野菜、そしてその豊富な量は、地域の人々の健全さを永きにわたり支えてきました。
また、日本海に流れ込む関川水系は、日本初の揚水式発電所である野尻湖をはじめ、小水力発電及び農業利水、治水と、100年以上前からすでに現在のSDGsが掲げる活動をしており、国内でこういった事が成り立つ風土は、奥信濃と会津の2カ所しかない、非常に稀有な土地柄でもあります。
石田さんは顔の見える農家の方々とともに、都会に健康的な食を提供できるネットワーク作りに取り組んでいます。

蕎麦畑を始めたきっかけ
栽培から蕎麦粉まで自社で一貫生産

まず長野は蕎麦屋が少なく美味しいお蕎麦がなかなか食べられない(戸隠でも地場のお蕎麦が食べられるお店は数件ほど)ということを知り、なんとかならないものかと考えました。2008年ちょうどリーマンショックの頃、国内で流通している日本産の蕎麦は5%程しかない(あとは中国、カナダ、ウクライナなど)という現状を知りました。現在は30%以上に増えてきていますが、国産の蕎麦粉を手に入れるのはなかなか大変なことなのだと気づきました。リーマンショックで建設業が打撃を受けていたこともきっかけとなり、蕎麦畑を始めることにしました。
どんな農産物を始めようか色々考えましたが、戸隠も近いですし、そんなに手がかからないのではと蕎麦栽培を始めることに。おいしい蕎麦の条件である甘みは寒暖差が重要です。標高が高く、水捌けが良い土地を探し、もとは牧草地で石が多く誰も耕したがらなかった場所を見つけ、8ヘクタール(200m×400m)の畑を開墾しました。1ヘクタール1トンを目安にしたのですが、初年は500キロしか収穫できず、どうなることかと思いました。
収穫を上げるため、試しに化成肥料を使ってみましたが、虫も飛ばなくなってしまい不安になりました。蜂がいなくなって受粉しなくなると作物が育ちません。土もバクテリアがいなくなって枯れてしまっていました。
このようなことがあって自然に任せてやってみよう、農薬を使わずにとにかくやってみようと思いました。農薬を撒かずに育てることで、蜂や蝶が蜜を吸いながら受粉してくれ、蕎麦の実が結実してくれます。この頃は本業が順調になってきたこともあり、いろいろな事にチャレンジできたのも大きかったです。
蕎麦の花がつくのが8月中旬〜9月初旬になりますので、機会があったらぜひ見に来てください。

蕎麦の花が満開の黒姫山麓蕎麦農場

蜂や蝶が飛ぶ元気な畑にするために
人間都合から食材都合へ

土の中にミミズがいない、バクテリアもいない、そうなってしまうと美味しい農産物を作るのは難しくなってしまいます。人間の都合で化成肥料を使用して畑を耕すと、菌根菌を死滅させていき、そういう土壌では作物は育ちません。菌根菌のいない土壌は栄養の砂漠であり、また、保水力も失ってしまい、土流れも起こし、更なる環境劣化を招きます。本来の農作とは、自然の恩恵を上手に取り入れ、永きにわたり調和する先人たちの知恵です。
自然にできる美味しい収穫を大切に、環境から農の強さを取り戻すことを心がけています。
あとは農家が抱えている問題にも取り組んでいきたいです。
見た目が悪い、サイズの大小など、規格外とされる多くの行き場のない野菜が廃棄されています。そうすると利益も少なく、新しい人材を雇用する資金もできず、ビジネスとして成り立たなくなっている現状があります。農業を元気にするために何ができるのか、日々考え続けています。
農業法人ナチュラルネットは、長野の農産物を都会に届ける取り組みをしています。上野公園の広場にキッチンカーで限定ショップをオープンし、そば粉ワッフルの販売もしているそうです。

石田正士さんは長野の農家と連携し都会とネットワークを作るため奮闘する日々

小松庵総本家 銀座で提供している石田さんのお蕎麦をご紹介します。

黒姫霧中(きりなか)蕎麦
品種:信濃1号

​美しい黒姫山の麓に広がる雄大な蕎麦畑。柔らかく良質な霧に朝晩抱かれて、黒姫蕎麦は豊潤に育ちます。自社内のアトリエで、絶妙な水分量を保ちながら、時間をかけて石臼で丁寧にひかれたその蕎麦粉は、キメが細かく、打ちやすいと評判。また、蕎麦の良い香りの抜け際に、舌の上に残るほのかな甘みがまた後を引く、これぞ日本人を400年にわたり魅了し続ける蕎麦粉、と自負しております。

石田さんは「銀座のお蕎麦屋さんで出しているブランド蕎麦です」と言っていただいているとのこと、大変光栄です。
小松庵は本物の味を守るために、これからも国産の蕎麦粉100%にこだわり続けます。出汁に使う鰹節や昆布、野菜などの食材も国内の生産者の方との繋がりを大切に美味しいものを追求していきたいと思います。

小松庵総本家 銀座 森の時間(平日16:00〜17:00)は展示してある作品をじっくりご鑑賞いただける、ギャラリー・タイムです。(この時間はお食事の提供はしておりません。)
今後も不定期でワークショップやトークショーなど様々なイベントを企画していきます。お気軽にご参加ください。
小松庵総本家 銀座(Tel. 03-6264-5109)

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