見出し画像

北東の水族館


「キレイ」
そう指差す先にあるものを
同じように
キレイと思えなくなって久しい


自分で精一杯
半径1メートルの事さえボンヤリ
そんな時にも
作為のない共感で
「ほんとキレイだね」と
相槌を打っていた自分がちょっと懐かしい


帰りの地下鉄で
僕らの前に座っていた五十過ぎの男性
両手に荷物をもったおばあさんが来るなり
さっと立ち上がって
無言の右手で席に座るよう促し
隣の車両へ歩いていった


あんな風に
器用に スマートに
これから僕は
キミのために 誰かのために
何かを 真っ直ぐにしてあげられるのかな
「してあげる」
という上から目線を拭い去れるのかな


何1つ不自由なんてないのに
何1つ不自由なんてないからこそ
些細なことで苛立ってばかり
そんな自分にタメ息ばかり


それでもキミは
この心の奥を知って知らずか
狐の嫁入りのような声で
「また、いっしょに行こうね」と
この手をそっと握ってくれた



       ( 第3回 関市文芸作品展 現代詩 一般の部 佳作 )

-------------------------------------------------------------------------

【 初出 】

詩のブログ
『 橙に包まれた浅い青 』

2012年11月24日
「 北東の水族館 」


24時間365日クリエイターサポート受付中です。100円、500円、1,000円、自由金額・・・何円でも大歓迎です。頂いたサポートは、こませんの想像欲と創造欲を刺激し、想像量と創造量を向上させ、想像質と創造質を深化させ、想像性と創造性に満ち溢れた想像と創造に寄与します!(たぶん)