小説|撫でられてたまるか
今夜もお前のギターで唄うよ。もう使わねえんだろう。猫には弾けねえとお前は俺に言ったな。ところがどうだ。弾けなくなったのはお前だろうが。お前が会社で人に頭を下げているとき、俺は駅前でギターを弾くんだ。
お前の歌が好きだったのさ。路上で唄っているお前の歌を聴きもしねえで素通りする馬鹿どもの面を引っ掻いてやりたかった。良い曲だっただろう。良い声だったじゃねえか。何でそう簡単に夢をあきらめちまうんだよ。
ギターなんか捨てて愛嬌を振りまいて住宅地をぶらぶらすれば、たしかにいくらでもエサをもらえるだろうさ。毎日同じ道を通ってよ。好きでもねえやつらに頭を撫でさせてな。それでいいのか? いいわけねえんだよ。
終電でくたびれたお前が帰ってくる時間に合わせて俺は唄う。お前はさ。いつもギターを弾く俺の頭を撫でるよな。違うんだよ。分かってるはずだ。俺はお前に撫でてほしいわけじゃねえ。また唄ってほしいんだよ。
ショートショート No.324
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