小説|君に贈る火星の
天文学者の父親と同じく少女は宇宙を愛しています。一三八億年の歴史を想う賢い少女は、他の子と違う景色を見ていました。長い入院生活で少女を見舞う友達はひとりもいません。「広い宇宙で生命は孤独なもの」と少女。
生まれつき少女は重い病を患っています。手術を受けなければもって五年と医師は言いました。けれど、手術が失敗すれば命を落とします。「手術は受けたくない」と少女。「五年も七十年も宇宙の時間の中では小さな差」
父親には大きな差です。彼は将来を想います。小学校の卒業式、中学生の制服姿、成人した娘と呑みながら星について語る時間。彼女の意思を大切にしたいと思っていましたが、ある星夜、火星の話をすることに決めました。
今年、探査機が火星で試料を採取したこと。それを地球で分析すれば生命の痕跡が見つかる可能性があること。「楽しみ。いつ地球に試料が届くの」と娘。「十年後」と父親。賢い少女は不器用な天文学者を抱きしめました。
ショートショート No.274
昨日の小説
「ものがたり珈琲」さんに小説を寄稿しました。
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