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小説|小さな旅人

 夕焼けを見て彼女は焦ります。今日は休もうと決めたのに何もせず終わりゆく一日を彼女は不安に思いました。立ち止まるとみんなに置いていかれる気がします。肩を落とす彼女の肩に小人がよじのぼりました。「よお」

 先月から彼女の家に泊まっている小人です。何十年も世界を旅しつづけていると小人は言っていました。彼女は訝しんでいます。少しばかり泊めてくれという話だったのに、もう一ヶ月。「いい夕日だ」と小人は呑気です。

 出ていってよ。彼女の声が震えました。強く言うつもりはなかったのに、今日を無駄にした自分へのいらだちをぶつけてしまったのです。涙で揺れる肩に、小人は小さく温かい手を載せました。「あんたも一緒に行くか?」

 彼女は首を横に振ります。冗談だよと小人は笑って続けました。「でも、覚えておきな。あんたも立派な旅人だ。みんなと同じ道を歩まなくていい。それに。歩くだけが旅じゃない。休んでいる今この時もまた旅のうちさ」






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ショートショート No.359

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