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小説|北風と体温
北風は道ゆく彼女に話しかけます。風の声は、彼女の凍える紅い耳へ届きました。上着ではなく、ただ彼女の涙を吹き飛ばしたくて、日も雲に隠れる寒空の下、北風は彼女にこう語ります。
「より暖かい上着を着るのもよいでしょう。マフラーを巻き、手袋をつけるのもよいでしょう。カイロを懐へ忍ばせるのもよいでしょう。風の届かない建物で暖をとってもよいですし、暖かい地へ引っ越してもよいでしょう。
去った夏を思い出すのもよいでしょう。次の春を想うのもよいでしょう。温かい誰かの言葉をこっそりと口に出してもよいでしょう。これから家族や友だちと会い、会話の温もりを味わってもよいでしょう」
涙は北風に拭われたものの彼女の身は凍えます。もともと人よりも体温の低い彼女の瞳に、また涙。北風は続きを語ります。「どう寒さをしのいでもかまいません。ひとつだけ避けるべきは、寒さに弱い自分を責めること」
ショートショート No.296
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