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小説|枯れた声が咲くときに

 強くなりたい。少年は病床で両親に言います。生まれつきからだが弱く、小学校を休んでよく入院しました。辛い治療を終えて登校すると、いじめに遭う日々。雨の中、少年は家に帰って涙声で言いました。強くなりたい。

 中学校に上がると、少年はバスケットボール部に入ります。両親の心配をよそに、誰よりも背の小さい少年は、誰よりも早く朝練に向かい、誰よりも遅くまで放課後の練習に励みました。少年をいじめる者はもういません。

 一年生も、二年生も、大事な試合には出られませんでした。少年は学年が上がるごとに練習の量を増やします。中学三年生になった時、しかし少年は最後の大きな大会で、レギュラーには選ばれませんでした。

 自分が出ない試合を観に来るなという少年の言葉を聞かず、両親は隠れて体育館のギャラリーから見守ります。身体が弱く、背も低く、三年の努力も報われず、それでも懸命に応援する少年。枯れた声が、強く咲きました。






ショートショート No.281

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昨日の小説

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