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小説|小人と過ごした日々の手記

 六月某日。手のひらで小さな命を救いました。郵便ポストから飛び降りた小人を受け止めたのです。気を失った小人を放ってはおけません。家に連れ帰ります。目覚めた小人は泣いていたので、夕飯を一緒に食べました。

 六月某日。小人は、喋れないようです。みづ。蛍光ペンを担いでメモ帳に書いた言葉です。水をあげると照れながら飲み干します。短くなった鉛筆をあげたら喜んでくれました。蛍光ペンは大事な文に引くものだと教えます。

 六月某日。この暮らしを幸せに思いますが、小人がどう考えているのか、心配です。膝の上でテレビを観ていると思っていたら、遠い目をして窓外を眺めている時がありました。郵便ポストのことが思い出されます。

 六月某日。朝起きると小人はもういませんでした。またね。メモ帳に短い鉛筆が添えられていました。隣に置いてあったこの手記が開かれています。出会った日から綴っていた全文に、黄色いマーカーが引かれていました。






ショートショート No.111

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