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小説|気分の波乗り

 心の中に小さなサーファーがいると彼女が気づいたのはいつのことだったでしょうか。静かな部屋で自らの呼吸に気を向けると、サーフィンを楽しむ影が心に浮かびます。サングラスをした筋肉質の小人が歯を輝かせる姿。

 気分の浮き沈みが大きいことを彼女は悩んでいました。だからこそ静かな場所で心を落ちつかせる時間をとっていたのです。気分が落ち込むときは、自分がどうにも情けなく感じられ、彼女は辛い思いをしていました。

 どこか気の合わなそうな小人に話すつもりはなかったのに、苦しいときに彼女は藁をもすがる思いでサーファーに悩みを打ち明けます。サングラスを外すとつぶらな瞳をしていました。小人は思いのほか優しい声で語ります。

「君の気分の波に僕は文句を言わない。波乗りに失敗して沈み、水中で息ができない自分を責めなくていい。僕らは魚ではなく人だからね。波に沈んだときは焦らず、浮かび上がるのを待って、水上でゆっくりと息を吸おう」






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ショートショート No.305

昨日の小説

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