小説|遊園地で君と握手
主役でないことにはもう慣れました。彼女は遊園地の舞台で叫びます。「大きな声でヒーローを呼んでみよう!」。子どもたちはヒーローの名前を叫びました。「声がちっちゃいよ! もう一度!」と彼女は盛り上げます。
子どもたちが目を輝かせて見つめる先には、いつもヒーローがいました。色鮮やかな衣装を着たヒーローたちが怪人と戦っている間、彼女は舞台袖に控えています。毎日、目立ちすぎない地味な衣装を着ていました。
舞台が終わると握手会が始まります。子どもたちを並ばせて、ヒーローのもとへ案内する係も彼女は担っていました。「握手したい」と少女が小さな声で彼女の袖を引きます。「ヒーローたちはあっちだよ」と彼女。
少女は首を横に振ります。手のひらを差し出してきました。「お姉さんと握手したい」。彼女は戸惑います。少女は彼女の手を取りました。「私ね。声がちっちゃくてね。おっきい声のお姉さん、すごいかっこいいと思う」
ショートショート No.197
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