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小説|足跡の流れ星

 夢の中だと、少女は気づきました。何度も何度も見た夢だったからです。夜空で、もう会えない大切な人と自転車の二人乗りをしていました。少女は荷台に腰かけて地上を見下ろしています。街は輝いて見えました。

 家、店、ビル、車、街灯。さまざまな明かりがきらめく中、ひときわ強い輝きを放つのは、足跡でした。大切な人がこれまで長く歩いてきた跡です。星みたいにまたたいていました。生きた跡は、街中を照らしています。

 大切な人がよく散歩した道は、天の川のように見えました。いつも少女と一緒に遊んでくれた公園は、一番星くらい強く輝いています。でも、何より明るく見えるのは、ベッドで眠る自分の胸の奥。そこで少女は目覚めます。

 まだ夜中でした。少女はこっそり家を抜け出します。なるべく大切な人が歩いたことのない道を選び、パジャマ姿のまま、まっすぐ前に走りました。大切な人に見てもらうためです。流れ星のように輝いて見えると願って。





tenさんがこの物語を元にすてきな絵を描いてくださいました!

ショートショート No.75

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