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竹村 悠斗さん INTERVIEW.13

 まだどこかあどけなさやフレッシュさの残る今どき男子。それが竹村くんと最初に出逢ったときの印象だった。そんな彼は今や駒ヶ根の観光を牽引する若き経営者である。興味を持った私は「話を聞かせてほしい」とお願いの電話をしたところ「いいですね!ぜひです!」と即答してくれた。このフットワークの軽さが実に竹村くんらしい。
 
 今回ご紹介するのは、中央アルプスリゾート株式会社の統括支配人である竹村悠斗さん、32歳。
 天竜川の東側、駒ヶ根市中沢出身の竹村さんは、スキーをやっていたご両親の影響で3歳のときにゲレンデデビュー。それ以来スキーにのめりこみ、プロスキー選手を目指して白馬高校へ。東京の大学に進学した後も部活に明け暮れる日々だったが、大学のとき滑走中に大怪我を負い、スキー選手の夢を諦めざるを得なくなった。

 絶望感を感じながら将来について思い巡らせる中、地元の駒ヶ根が好きだったこと、そして父親が海外赴任中だったことなども相まり、「地元に帰ってスキーに携われる仕事をやろう」と駒ヶ根高原スキー場を経営していた中央アルプス観光株式会社へ入社した。駒ヶ根高原スキー場は幼いころに通い続けたスキー場で、当時スキー場のおじさん(支配人)だった方にも入社にあたりお世話になった。
 しかし就職あるあるだが、行きたい部署、やりたい仕事にはなかなか就けないもの。竹村さんもすぐにスキー場へは配属されず、駒ヶ岳ロープウェイの運行業務や東京の営業所で働くこととなった。もどかしい気持ちを抱えながらも、ポジティブな竹村さんは毎日必死に働き、当時のことを「ビジネスマナーや仕事の厳しさなど社会人としての基礎を学べたのでとても良い経験でした」と振り返る。いつしかこのまま東京に残りたいとまで思うようになったが、念願のスキー場配属の声がかかり若干の後ろ髪を惹かれながらも再び駒ヶ根へ戻ってきた。
 東京営業所時代、社会の荒波に揉まれながらがむしゃらに働いてきた経験から、「駒ヶ根でも現状に満足せず貪欲な人間にならないといけない」と感じ、「例年通りは退化のはじまり」をキーワードに、変化とチャレンジをし続けることを心に誓った。
 スキー場を任されるようになって1~2年経った頃、スキー場が買収されることになった。このままスキー場で働きたいと思った竹村さんは即行動。当時勤めていた会社を退職し、新たなスキー場経営会社の面接を受けて見事チャンスをつかんだ。熱意の趣くままにしなやかに動き続ける柔軟性と、「やるかやらないかの二択なら、やるを選ぶ」と語る竹村さんは、まさに「変化とチャレンジ」を有言実行している。

 新たな会社で統括支配人としてスキー場の経営を任された竹村さん。ただ現実はそう甘くなかった。経営の経験がない竹村さんはその時のことを「孤独感がえぐかった」と言葉にした。「資金不足で人もいなくて、一人でやらなくてはいけないプレッシャーに心が折れそうになりました」。
 それでも決断したからにはやるしかないとスキー場の仕事を全て一人でこなした。経営の経験はなくても、グループ会社の成功したノウハウだけを取り入れ、見様見真似で必死に走り続けた。その結果、売り上げは徐々に上がり、人を雇用できるようになり、仲間も増えて、身体や気持ちが楽になっていった。今では自分自身が辿ってきた道と同じように元スキーの教え子だった社員もいるそうだ。
 「やれないことをやる、できないことができるようになる、それが一番おもしろい」、好奇心旺盛な性格は彼の最強の武器かもしれない。
 経営トップの情熱やマインドは働くメンバーにも波及し、仲間たちもやりたいことを考えアイデアを提案してくる。「やってみたい!は必ず実行へ」と背中を押すトップの姿勢に、少数精鋭ながら会社の社風は良いのではないかと語ってくれた。取材していたこの日は新規スタッフの採用面接を控えていたのだが、竹村さんは面接前から採用を決心していた。分け隔てなく誰にでも挑戦できるチャンスや環境を与える彼の懐の大きさを見習いたい。
 常に進化を目指す竹村さんは従業員との信頼関係を着実に築き、仕事を任せ、自身は次のフェーズへ。露天こぶしの湯という温泉施設の経営も始めた。
 
 自分のふるさとについて、「駒ヶ根にはまだまだポテンシャルがあります」と言葉に力がこもる。ちょうどよい気候、アクセスのよいところにスキー場があり、別荘地もある。田舎だけど工業、農業、子育てなどそれぞれいい条件がそろっているし、リニア新幹線の開通も追い風になると感じている。
 市内には魅力的なコンテンツが点では存在しているが、それを面でつなげる人材が欠けている。そのためにまずは滞在できる拠点を作って、そこをハブとして色々なスポットへ行ける流れを作りたいとキャンピングリゾート「駒ヶ根高原家族旅行村」の再建を図った。家族旅行村の中は「芝生のサイト」、「眺めの良い高級サイト」、「安価で楽しめるサイト」などテーマごとにゾーニングしたことでお客様の満足度が高まりクレームが劇的に減ったという。コロナ禍でのキャンプブームもあってキャンプ場の売り上げはV字回復、過去最高を更新し続けた。
 「多様化するニーズに応えるためには、駒ヶ根市内もエリアごとに特色を出して区画整理をするのが良いと感じています。自治会や消防の在り方などについても多くの課題があるので、若い世代が移住しやすいゾーニングなども必要かもしれません」。

 スキーだけ、キャンプだけではなく、美味しい飲食店に立ち寄る、いちご狩りをするなど観光のスタイルも多様化している。「どこか一つの場所に留まる観光ではなく、まちづくりを意識した観光スタイルを作っていきたい。表に出ていないだけでまだまだイイモノがたくさんあります。発信が苦手な地域なので、みんなで連携しながら地域の魅力を伝え、地元へ還元したいです」。目指すは駒ヶ根市を日本一の滞在型観光のまちにすることだ。
 
竹村さんからみる駒ヶ根の魅力はどこなのかー。
 「自然豊かな場所はたくさんありますが、中でも駒ヶ根のレベルは秀でていると思います。麓のどこにいてもアルプスの雄大な山が望めて、地元民である自分さえ毎日見ていても飽きません」
毎朝出勤してくるときに中沢のまちからみえる景色が心を穏やかにしてくれるそう。
 
 2児のパパでもある竹村さん。仕事に夢中なあまり子育てに関してはお手本にはならないと謙遜するが、こんなに楽しそうに働く父親の背中はきっと人生最高のお手本だと思う。そしてそれは仕事も一緒で、「働く人が夢を見れなければ、お客様にも夢は魅せられない」と語る経営トップが果敢にチャレンジし続ける姿は会社全体に必ず良い機運をもたらす。経営者のまっすぐな情熱を間近で感じながら仕事ができるのも地方の醍醐味だ。
 住み慣れたふるさとの「当たり前の魅力」に気づくのは案外難しいこと。そこに大きな希望と夢を抱く若きリーダーの存在がとても心強く、今後の展開が楽しみでならない。


竹村 悠斗 Yuto Takemura

駒ヶ根市中沢出身。プロスキーヤーを目指し大学時代までスキー三昧の日々を送っていたが、怪我であえなく断念。プレイヤーではなく経営サイドからスキーに関わるようになる。現在は中央アルプスリゾート株式会社の統括支配人として、駒ヶ根高原スキー場のほか、駒ヶ根高原家族旅行村、露店こぶしの湯、信州たかもり温泉「御大の館&湯ヶ洞」を運営している。日々の中に必ず「変化」を起こし、お客様のワクワクを追い求めて日々奮闘中。
 
■詳細はこちら
・駒ヶ根高原スキー場 https://komaganeski.com/
・駒ヶ根高原家族旅行村 https://campingresort-komagane.com/
・露天こぶしの湯 https://hayataro.org/stay/kobushi/
・信州たかもり温泉「御大の館&湯ヶ洞」 https://takamori-onsen.com/

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