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ワクチンをめぐる保守とリベラル(1)義務化をめぐっての対立

 日本ではワクチンをめぐって政党間の主張に違いがなく推進一辺倒の政党ばかりですが,外国では主張が明確に異なる場合が少なくありません。特に、はっきりしているのがアメリカで、リベラルな民主党がワクチン義務化を唱え、保守の共和党が義務化反対の立場です。これはなぜでしょうか?

 なお、共和党もワクチンに反対しているのではなく、義務化に反対しているのです。問題はワクチンそのものにあるのではなく,それを社会でどのように使うかという,社会政策面での違いにあります。その背景を理解しておくことは,日本の現状を少しでも改善するために必要と思います。

 まず,保守とリベラルという言葉を比較してみましょう。保守は文字通り,伝統を守るようなことをイメージできます。リベラルは漢字で書けば自由です。しかし,この自由とは何でしょうか。自由を重視するリベラルが義務化を推進するなんて,一見するとおかしいですよね?

 アメリカでは,政党名は民主党(Democratic Party)と共和党(Republic Party)で,名称には保守や自由はありませんが,民主党がリベラルで,共和党が保守なのは明確です。民主という言葉は,民(たみ)が主という意味で,国や組織ではなく民を中心に政策を進めるのがリベラルというのが一般的な理解です。

 共和(republic)の方は,君主国家ではないという意味で,用語としては保守的思想を含んでいませんが,democraticと対比すれば,人民による政治というよりも,人民の代表者による政治という意味合いが強くなります。

 一方,日本の政党は,自由民主党,立憲民主党,国民民主党というように「民主」を名乗る政党が多く,自由民主党の英語名はLiberal Democratic Partyで,文字だけから見たら,実態は別にして,海外ではリベラル派の政党と理解されるでしょう。

 欧米では、保守とリベラルは,常に政策面で常に競い合ってきました。新型コロナワクチンに対する政策的スタンスについても、ワクチンの導入には両方とも賛成していますが,義務化を巡っては厳しく対立しています。

 それが鮮明に出ているのがアメリカです。民主党のバイデン大統領のワクチン義務化への傾倒は日増しに強くなって,公務員や企業への事実上の義務化の要請など,非常に強硬な姿勢を見せています。民主党支持者が多く,知事も民主党出身のニューヨーク州やカリフォルニア州の知事のワクチンパスポートや義務化を強硬に進めています。

 一方,アメリカ中西部や南部を支持基盤とする共和党知事たちは,ワクチン接種には協力するものの,パスポートを含めた義務化には強く反対しています。民主党はワクチン義務化を目指し,共和党はワクチン義務化反対という対立構造がはっきり見えています。

 ちなみに上の図は民主党知事の州(青)と共和党知事の州(赤)で、はっきり地域差があることがわかりますね。都会が民主党、田舎が共和党のような感じです。自民が保守で、立民がリベラルとするとこの点だけは日本も似ていますね。

 他国の状況を見れば,リベラル色の強いカナダのトルドー首相,フランスのマクロン大統領は,ワクチン義務化の方向へ舵を切って、強硬な姿勢を示していますが,イギリス保守党のジョンソン首相や,保守政党であるキリスト教民主党のドイツのメルケル首相は,フランスやカナダほど強硬な姿勢は見せていません。

 一方,日本は,まだワクチンの義務化についてはほとんど議論されていませんが,その前哨戦ともいえるワクチンパスポートについては,政党間での意見の違いはほとんどなく、みんな賛成のようです。しかも、ワクチンがもたらす有害事象には共産党も含めて無関心で、国政レベルではほとんど議論にもならない状況です。

 それどころか,日本では,コロナの感染率や重症化率が低く,外国産のワクチンの副反応が相対的に大きいにもかかわらず,大きな抵抗なくワクチンの受け入れが進み,接種率が向上しているという、世界的に見て理解しにくい状況が生じています。

 このことはリベラルと保守という,人間の行動の根幹を何におくのかということに、日本人がいかに無頓着だったかを示していると思います。なぜリベラルと保守ではワクチンの義務化を巡って対立するのか,そこから日本人が学ぶことは多くあるはずです。

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