小1まで会った事の無い父親と3人で住み始め、1週間で家庭崩壊した話。【パート2】
お疲れ様です。春風冬子です。
前回の続きです。
前回はこちら↓
明るく和やかな家庭に突然不穏な空気。
小学校入学まであと半年となった頃。
ある日突然、私の知らない若い男性が家にやってきました。
帰ってくるや否や、家の中には何やらいつもとは違う、
重い空気に変わっていくのを、
幼いながらも感じ取っていました。
田舎あるあるかもしれませんが、
自宅に訪問者が来ること自体は全く珍しくありません。
LINEやメールが主流ではなかった頃ですし、
ご近所は高齢の方ばかりなので尚更です。
ただし、高齢の方だけではなく、若い方が訪れることも多かったのです。
一緒に住んでいた叔父の仕事仲間が遊びに来ることも多かったので、
若い方が家に訪れることには慣れていました。
なぜ、いつもの温かなムードが突然ピリついたのか。
当時の私には雰囲気を感じることしかできませんでした。
しかもその男性はその日から、
私と祖父母の寝室の隣の部屋に住み始めます。
私は親戚のお兄ちゃんかと思っていましたが、
その隣の部屋は母も使用していたため、
母の新しい彼氏なのではないかと思っていました。
(ドロドロ展開の昼ドラを曽祖母と日常的に観ていたので、こういう泥沼男女関係もあるのだなと小さいながらに理解していました。)
もしかしたら、皆さんはここで
「そこで父親だと勘付くのでは」
と思われるかもしれません。
実は、彼が現れる前、
私は子供ながらに母に自分の父親の存在の有無を聞いていました。
しかしその際にはっきりと
「アンタの父親は死んだ」
と告げられていたのです。
そのため、私が彼が実の父親であることに気付くことはありませんでした。
当時の父は家族とは仲が悪く、
祖父母や叔父とよく口論になっていたことは今でも鮮明に覚えています。
父は人に比べて短気で、すぐに手が出るタイプでした。
口論が始まると必ずと言っていいほどテーブルや壁を殴ったりする大きな音が聞こえてきます。
当時はその音を聞くだけで身体中に冷や汗をかく程パニックになっていました。本当に怖くてたまらなかったです。
父が家に住み始めた頃から少しずつ、
家族の間に溝ができていくのを感じていました。
今まで恐怖なんて感じなかった家の中に、
怒号や大きな音を鳴らし脅かす存在である彼のことが、
本当に本当に嫌いでした。
私は彼を避けるように生活するようにし、
私が家族の問題に介入しないように空気を読んで生活することを意識するようになりました。
そしてこの頃からストレスの現れか、
爪を噛む癖が出てきていました。
この癖は成人してネイルサロンへ通うようになってから徐々に改善されつつありますが、いまだに完全には治ってはいません。
そしていよいよ、小学校入学まで残すところあと1週間というところになりました。
新品の真っ赤なランドセルを祖父母に買ってもらい、
来週から幼稚園の友達と一緒に、
地元の小学校へ登校すると思っていました。
もちろん期待とワクワクで胸がいっぱいでした。
しかし。
そう思っていた矢先、
まさか引越しをするという話が耳に入ってきました。
引越し先は当時住んでいた場所から約70キロほど、
車で1時間半ほどかかる場所です。
幼い私はもう二度と祖父母に会えないと思っていたので、深く絶望したことを覚えています。
でも私は根っからのポジティブシンキングでした。
最初は私は無関係で、彼と母が遠くで暮らすのだろうと思っていました。
なぜなら私が大のおじいちゃんっ子であり、
父方家族全員と長く過ごしてきたからです。
それは十分に祖父母も母も理解していて、
私を連れて引越しをするなんてありえない、そう思うようにしていました。
小さい希望が、その可能性が少しでもあると信じていました。
また、ハッキリと聞くその前に、
引越しをするという話自体は風の噂で耳に入ってきていました。
私が実家を離れてしまう、大好きな祖父母たちと離れてしまう、
少しでもその可能性を消すために、
「じーじとばーばとおばあちゃんとずっと一緒に暮らす!」
と寝る前に家族に言って回るなど、
大袈裟すぎるほどアピールしていました。
でも、その努力も虚しく、水の泡になりました。
今まで距離を置き続けた彼とたまたま夕食のタイミングが重なり、
目の前に広がる色とりどりの祖母の手料理を、私は黙々と食べ進めていました。
すると突然、一度も話したことのない彼が口を開き、私にこう伝えました。
「お前は来週から俺と母親の3人で暮らすことになる。俺はお前の父親だ」
私は恐怖と混乱で、何も反応をすることができませんでした。
私には父親がいないと母から言われていたし、
なんせ今まで夢に思い描いていた小学生のイメージが、
全て崩れてしまったのです。
その日は相当ショックを受けてしまい、
いつもおかわりをする大好きな白米を半分以上残したまま、
何も言わずにいつも寝ている布団へ潜り込みました。
一番お気に入りのぬいぐるみを力一杯抱きしめながら、
涙をたくさん滲ませて眠りにつきました。
日々はあっという間に過ぎ去り、とうとう引越し当日となりました。
先に荷解きをしに行った両親が夜に迎えに来るとのことだったので、
身支度を整えていました。
ほとんど新居に持って行っていたのですが、1種類だけ私の荷物が残っていました。
それはぬいぐるみの親友達です。
私は幼少期からたくさんのぬいぐるみに囲まれながら寝るのが常で、
新生活に連れていく子達の選出に精を出していました。
結局、どの子にもたくさんの思い出が詰まっていたので、
幼い私には選んで連れていくことができませんでした。
どうしても、と祖父に頼み、みんなが入るぐらいの大きなバッグを用意してもらうことができたので、迎えに来るまでの間、嬉々として詰め込んでいました。
そうこうしているうちに両親が到着し、
残りの荷物を車へ積み込み始めた時、
私の親友たちが詰め込まれたバッグも乗せてもらおうと母に渡そうとすると、
「そんな汚いガラクタなんて新居に持っていけない、置いて行きなさい」
そうはっきりと言われてしまい、
親友達は連れていけないショックで泣きそうになる中、
私は、最終的に手に持っていた1匹のウサギのぬいぐるみだけを抱きしめて
車の後部座席へと押し込まれました。
少しも経たないうち、
両親は祖父母に挨拶を済ませたのか、
車に乗り込みシートベルトを締め始めます。
初めて乗る父の車はスポーツカーで、
両親好みの甘ったるい香水の匂いが漂っていました。
車内は父の趣味であろう、蓄光の白いファーの装飾が光っていましたが、新月だったのか、淡くうっすらと滲んでいる程度でした。
見送る祖父母を横目に車はゆっくり走り出します。
私はずっと頭の中で考えていました。
「この先どうなるんだろう」
先の見えない新生活、
過ごす時間の少なかった母と得体の知れない、父親と名乗る男性、
そして大好きな祖父母達と突然離ればなれになってしまったと、
急激に寂しさに襲われました。
元々寂しがりやで、
近くに人がいないとすぐに泣いてしまうほど臆病な性格でもあったのですが、なぜかその時、
泣いちゃいけない、
と、声を殺すために唇を強く噛み締めながら、
静かに瞼をぎゅっと閉じていました。
結局、涙は溢れてしまうのですが、
幸い夜で暗闇のため、両親にはバレずに涙を流すことができました。
そのまま瞼を閉じ続けていると、
気づいた時にはそのまま眠ってしまっていました。
新居に着いた時、車から降りるために起こされました。
ふと、親友に目をやると、あの子の顔には大きな涙の滲みが残っていたことを今だにぼんやりと覚えています。
続きます。
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