スクラムマスターの真の役割

最近はよくスクラムについてのレクチャーを実施させて頂いたりするのですが、スクラムマスターの役割について聞かれることがしばしばあります。

スクラムマスターの役割は、スクラムガイドには記載されていますが、私は実際このガイドの書き方では、インパクトが足りていないと考えています。

スクラムマスターの真の役割は、
『1スプリントでチームが『出荷可能な製品(Shippable Product Increment)』を作り、フィードバックサイクルを回せるようになる状態にする』
ことだと考えます。
本来、スクラムにおけるスプリントの成果物は、
『潜在的に出荷可能な製品の増分(Potentially Shippable Product Increment)』です。

ですが、ここで敢えて『出荷可能な製品(Shippable Product Increment)』として、『潜在的に(Potentially)』の部分を消しています。
『潜在的に(Potentially)』が入ることによって、チームはDONEの定義におけるUNDONEの部分をスプリント内で実装しなくても良いことになりますが、本来であれば市場に出してこそ有益なフィードバックサイクルが回るという考え方から、出荷可能な状態にまで持っていきたいと考えます。

では1スプリント(1week~長くても4week)でチームが
『出荷可能な製品(Shippable Product Increment)』
を作るにはどうすればよいのでしょうか。

伝統的な大企業だとほとんどそれが無理だと思われます。多くの場合、
・既存の社内プロセスやルール
・これまで則ってきた暗黙的なルール
・他部署との整合
・他会社との整合
・法規制
・働く人のマインド
・組織形態
・既存システムのアーキテクチャ
などのしがらみがあり、それらを少しづつ打破していく必要があります。
これを打破するのがスクラムマスターの役割です。

この打破のためのバックログを
インペディメントリスト(障害リスト)impediment list
と呼びます。
『1スプリントでチームが『出荷可能な製品(Shippable Product Increment)』を作る』ことを邪魔しているため、インペディメントリスト(障害リスト)と呼んでいます。

それこそ、社内政治にも首を突っ込む必要があります。
アジャイルのマインドを説き、個々人(メンバー、マネージャーやCEOを含む)、チームから組織・会社を変えていく。
非常に官僚的な仕事でもあります。どろどろした感じもうけます、根回し根回しになることもあるでしょう。これこそがスクラムマスターの役割なのです。
組織の変革者、それがスクラムマスターです。

『優れたスクラムマスターは、業界をも変える』と言われています。

これはその通りだと思います。
『1スプリントでチームが『出荷可能な製品(Shippable Product Increment)』を作る』ことを邪魔している全てを変えていく、たとえ、法律であっても変える必要があるなら変えていくための働きかけをしていく。

そのためになりふり構わず目指すべき場所を示し、進んでいくのです。それがスクラムマスターです。

スクラムマスターに必要な要素として、以下のことが言われています。

・コーチング(Coaching)
・ファシリテーティング(Facilitating)
・メンタリング(Mentoring)
・ティーチング(Teaching)
・シチュエーショナリング(Situational-ing)
・謙虚さ

確かに、これらを高い次元で兼ね備えたスクラムマスターであれば、業界をも変えていけるかも知れません。
私は、まだこれらを高い次元で兼ね備えたスクラムマスターに出会ったことはありませんが、私自身がそうなれるかはわかりませんが、なれるよう、日々精進しているところです。

真の役割は上記だと考えますが、一般的にスクラムマスターは以下のような役割を持っています。

スクラムマスターは、チームの秘書ではありません。打ち合わせを設定する、おやつやコーヒーを準備する、備品を補充する、ホワイトボードをキレイにする、打ち合わせの時間を管理する、スケジューリングをする・・・それはチームで行ってください。
・スクラムマスターは、ハイパフォーマンスなチームを作ります。それは決してコストではありません。
・スクラムマスターは、スクラム・アジャイルのマインドセットを信じています。スクラム・アジャイルが成功への正しい道だと信じています。(そうでなければ、組織を変えることなどできません。重要なのはパッションです。)
スクラムマスターは、自己組織化されたスクラムチームを作ります。自己組織化されたチームは、チームで顧客と接触し、顧客からフィードバックを得て、自分達自身で改善を繰り返せるチームです。つまり、1スプリントで出荷可能なプロダクトを作りきることが必要になります。
・スクラムマスターは、スクラムチームのコーチであり、必要なときはファシリテータをするときもあります。
・スクラムマスターは、チームが顧客とより近くなれるよう支援します。
スクラムマスターには、プロダクトを完成させ出荷する責任はありません。もちろん品質にも責任を負いません。
・スクラムマスターは、チーム対する妨害からチームを守ることがあります。妨害とは、例えば、開発チームがプロダクトバックログ以外の作業をすること。1スプリントで出荷可能な製品を作れていない組織形態のこと、アーキテクチャのこと。
・スクラムマスターは、開発チームが、開発チームの責任を果たすこと、つまりスプリントごとに動くソフトウェアを作る、DONEの定義を満たすこと、生産性の向上を耐えず狙っていくことを奨励します。
スクラムマスターは、スクラムチームの透明性を推進します。透明性があるとは、スクラムチームが次に何をする必要があるのか瞬時に判断できる状態であることです。そうなるように透明性を推進します。理想と現実のギャップを常に追い続けます。理想を明らかにし、現実を明らかにします。
・スクラムマスターは、スクラムチームがアジャイルとスクラムのマインドセットを持てるように教育します。人は忘れてしまう生き物です。何度も何度も教えます。
・必要であればスクラムセレモニーをファシリテートします。
・スクラムマスターの仕事は思っているより創造的です。透明性を推進し、チームを活力づけるには、創造性が欠かせません。これはもしかしたらプロダクトを実際に開発するよりもっとイマジネーションが必要かも知れません。色々な工夫をして、見える化し、チームに動機づけをします。
スクラムマスターにもリーダーシップは必要です。サーヴァントなだけではありません。ときにはチームを引っ張る必要もあるでしょう。チームが成熟していない、混沌としている場合にはリードする必要もあります。
・スクラムマスターは、クリエイティブで直感的な仕事です。
スクラムマスターは、共感の場を生み出します。
スクラムマスターは、チームの関係性を認知し、チームの関係性を徐々に癒やしていきます。
スクラムマスターは、傾聴し、システム(チームを含めた組織や会社全体)の声を聞きます。局所最適な解決はしません。
・スクラムマスターは、他者の成長にコミットします。ひとりひとりの声を聞き、コーチし、気づきを与えます。
スクラムマスターは、一人では何もできないことを知っています。組織・チームで解決します。
・スクラムマスターは、組織がアジャイルになる支援をします。大胆な変更をしません。一歩一歩進みます。組織や人に、本質的な変化を起こすのは数年から十数年かかる壮大な旅物語です。
・スクラムマスターは、その”人”すべてに焦点をあてます。(CoActive)
・スクラムマスターは、”人”の可能性を心の底から信じます。
・スクラムマスターは、コミュニティーを生み出します。
・スクラムマスターは、プロダクトオーナーを支援します。支援とは、プロダクトバックログの書き方、見える化(透明性の推進)、プロダクトバックログの意義、開発チームとの効果的なコミュニケーション、ROIの考え方、DONEの定義の確認、リリースプランの検討等です。
・スクラムマスターは、開発チームを支援します。支援とは、チームがフロー状態に入って作業ができているか、プロダクトバックログのみに焦点をあてられる状態になっているか、失敗や変化を喜んで受け入れるマインドセットになっているか、チームの状態が良いか(話やすさ、信頼、尊敬、謙虚さがあり、協力・協調・互助ができているか)、ふりかえりが単調になっていないか、受け入れ条件とDONEの定義を意識しているか、スプリントバックログに透明性があるか、デイリースクラムがただの報告会になっていないか、メンバーは自発的にタスクを取っているか等です)
・スクラムマスターは、技術的にもチームを支援します。支援とは、CI/CDができているか、CIは、数時間または数分単位で実行されているか、テスト駆動の価値を理解しているか、自動テストと手動テストのバランスはどうか、ユビキタス言語がコードに反映されているか、コードがCleanになっていてドメインを表しているか、リファクタリングの考え方が理解されているか、ペアプログラミングを行いコードが共同所有されているか等)
・スクラムマスターは、組織を支援します。支援とは、組織の課題に透明性があるか、チーム中心の考え方が理解されているか、学習する組織を構築できているか等です。
・スクラムマスターは、人やチームを評価しません。比べたりもしません。
・スクラムマスターには人事権はありません。
・スクラムマスターは、人事(HR)と一緒に会社の評価制度を検討します。
・スクラムマスターは、人事(HR)と一緒に人事規定を検討します。
・スクラムマスターは、メンバー個々人と対話をし、コーチングします。"人(People)"が全ての土台です。
・スクラムマスターは、積極的に何もしません。忍耐強く、”待つ”ことが多いです。

上記のことから、スクラムマスターは、兼任できません。もし兼任できていたとしたら、何かを犠牲にしています。スクラムマスターが真にやるべきことをやっていないのかも知れません。



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