約束の山
フィルムカメラを携えたはじめての山行。
どうしても行きたい山があった。
北海道の主峰、旭岳である。
今から10年前の6月に、ぼくは旭岳の山頂で妻にプロポーズをした。
この日のために、ぼくはサプライズで妻にもうひとつ指輪を買っていた(どうしてこうなってしまったかは、また別の機会に)。
プロポーズした瞬間、めちゃくちゃ良い雰囲気になったが、あとから登ってきた老夫婦の声で気が抜けてしまい、二人で笑ったのは良い思い出だ。
妻は10年目は来年だと言っていたが、ぼくは覚えていた。
確かに結婚してから来年で10年だが、プロポーズをしたのはその前年。
今年で10年目だと、笑。
何かをはじめる、きっかけの山。
ぼくにとって旭岳はそんな山だ。
すでに雪が降っていたので、家族で登ることはできない。
ヒマラヤ登山のときに妻からもらったお守りのピッケルを、代わりに持っていくことにした。
旭岳ロープウェイは観光客で溢れかえっていた。
天気はピーカン。
最高だ。
雪はまだうっすらと積もった状態だったため、ツボ足でもいける。
でも、グシャグシャのシャーベットで、踏ん張ると滑る。
せっかく持ってきたので、ぼくはアイゼンを装着した。
今回の相棒は、もちろんNikon F3HP。
ファインダー越しに見る山の景色は新鮮だ。
快調にシャッターを切る。
さすがに、久しぶりの山登りだったので途中ばてた。
そんなときは、焦らず深呼吸をして、しばらく景色を見た。
遠く広がる十勝岳連邦と、トムラウシ山が美しかった。
ゆっくり1時間半かけて山頂へ。
冷たい風が吹きすさぶ中、記念の写真を撮ろうとしたら、シャッターが切れない。
寒さで一気に電池が消耗してしまったらしい。
かじかみながら新しい電池を入れるが、やっぱりダメ。
4~5枚もダメにしてしまった。
緊急作動シャッターを使って撮影。
シャッタースピードは1/60秒だが、これだけ明るい中だったら、たぶん大丈夫。
極寒のアラスカで、星野道夫さんはこの電池問題をどう乗り越えていたのだろう。
ふと気になった。
これは宿題だな。
北海道のてっぺんは、いつ来ても気持ちがよい。
あれから10年。
大病なく、大きな怪我なく、健康で、家族4人ささやかな幸せを享受している。
何にかはわからないけれど、あふれ出す感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。
また、つぎの10年後まで。
どうか見守っていてください。
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