日本一秘境にある古本屋へ
先日、出張で日高に行ったときの話。
日高とは、北海道の真ん中に位置し、日高山脈の麓にある日高町のことだ。
札幌からは高速で1時間半ほどの距離である。
占冠(読めますか?)というICで降りるのだが、ICから日高までの道中に、いつも気になる看板があった。
「古本」
どうみても山と畑しかない、野中の一本道。
こんなところに、古本屋があるはずがない。
でも、その道を通るたび、やっぱり看板に目が行くのだ。
今回の出張終わり、時間に余裕があることもあり、意を決して「古本☞」と書かれた道を曲がってみることにした。
山間の一本道。
古本屋どころか、まず建物がない(笑)。
半信半疑で進んでいくと・・・。
あった!
一軒の平屋の横に同じ看板。
どうみても、民家。
ひとまず、民家の軒先に車を停め降りてみる。
ひと気がない。
やはり、どうみてもただの民家だ。
帰ろうか、と思ったその時。
前に停まっていた軽自動車のフロントガラスから足が見えた。
よく見ると、おじいさんが運転席で寝転がって本を読んでいるようだ。
恐る恐る声をかける。
「こんにちわ~、こちら古本屋で間違いないでしょうか・・・」
「・・・はぁ、一応そうです。」
「見ていかれますか・・・?」
「せっかくなので、はい。」
こんなやりとりのあと、おもむろにドテラ姿の老人は難儀そうに車から降り、玄関へ。
「・・・どうぞ。」
えぇ!?
思いきり人様のお家なんですけど・・・。
こんな辺鄙な場所にきて、見ず知らずのお家にお邪魔する。
すでに想像を斜め上行く展開だ。
中に入ると、奥様がいた。
まぁ、いらっしゃい的な軽い感嘆があり、「こちらです」と奥間へ通された。
部屋に入ると、びっくり。
四方を埋め尽くされた、けれど整然と陳列された書籍群。
「6000冊ぐらいはあるかと・・・。」
「普段の出入り口はあっちなんだけど、カメムシが多くて塞いでしまったのです。」
とご主人。
なるほど、外へ通じる別の入り口がある。
「寒いですね、いまストーブ付けますので・・・」
「お気に召す本があるといいですが・・・」
「どうぞ、ごゆっくり。」
どうやら、ぼくは本のパラレルワールドに迷い込んでしまったようだ。
どれどれ、さっそくどんな本があるか見てみる。
さっそく、啄木関係の書列に「宮澤賢治」の文字を発見。
文学関係はかなり充実している。
どの本も一冊200~300円程度。
全集のセット本もやたらに安い。
自然科学のコーナーがあり、ぼくが未読のレイチェル・カーソンの本が数冊あったので、まとめ買い。
名著『沈黙の春』も単行本があったので、購入。
圧巻だったのは、ジャーナリズム関係の書棚。
ぼくが好きな本多勝一氏の本は、過去一で在庫が揃っていた。
全部購入したかったのだが、手持ちがあまりなかったので、カナダエスキモー、ニューギニア高地人、アラビア遊牧民が一冊にまとまった単行本「極限の民族」を手に取った。
文庫で愛読している民族シリーズ。
これは是が非でも欲しい一冊。
松浦弥太郎さんが編集長を務めた『暮しの手帖』シリーズも、第一世紀が数冊。
これも欲しかったが、300号記念特別号があったので、ひとまずこちらを購入することにした。
他にも欲しい本が沢山あったのだが、現金の手持ちが1,500円しかなかったため、ピッタリ6冊購入した。
正直、一日過ごせるハイレベルな古書店だった。
支払い後、挨拶を済ませると奥様が玄関まで見送ってくれた。
ご主人は、わざわざ外まで出てきてくれ、手を振って見送ってくれた。
しばらく車を走らせると、やはりそこは野中の一本道。
なんだか、狐につままれたような気分になった。
北海道占冠村にある、「とも古書」。
日本一秘境の古本屋ではないだろうか。
北海道を訪れた際はぜひ。
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