マガジンのカバー画像

短文学集

25
筋も思想も体系も、全部気にせず楽しむことを短文学と称して日々の感傷を綴る。
運営しているクリエイター

#神社

忍び泣き

忍び泣き

 その日は大きめの低気圧がやって来ていて、予報通り空は一日中暗い雲に覆われていた。数時間に一度、雨風が窓を強く揺らしては去っていくのを、私はずっと布団の中で聞いていた。
 昔から空模様と体調が比例してしまう体質で、せっかくの休日に何も出来ないまま。それもあと四時間ほどで終わってしまう、という頃になってようやく布団から抜け出し、せめて空っぽの冷蔵庫をどうにかしなければ、と遅めの買い出しに出かけること

もっとみる
代替品

代替品

 長雨の下から出て傘を畳むと、頭上の山門が作る軒の下に水滴が落ちて黒いシミを作っていった。耳に染みついていたビニールの膜に雫が弾ける音がようやく遠のき、遠く山野を濡らす音が辺りに満ちている。傘を柱に立て掛けると腰掛け、鞄からライターと、久しく箱を開けてすらいなかった煙草を取り出した。
 ジーパン越しに湿気が伝わる。腕の産毛の先まで満遍なく包んだ湿気が、煙草まで達していないかが気がかかりだった。もた

もっとみる