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カクコツ特別編|広告代理店営業マンに聞く「良いライター・悪いライター」

お世話になっている広告代理店の東京支社長であるF氏。もともとはバリバリの営業マンであり、現在もプレーイングマネージャーです。勤務先は、地方に本社がある業界的には小さな代理店ですが、誰もが知るグローバル企業を得意先にもつなどなかなか底力のある企業。広告代理店から見た良いライター・悪いライターとは何か? 話を聞くと制作サイドとは違った視点でとらえていることがわかりました。その視点とは…

(*)インタビューは2022年1月14日、東京都に「まん延防止等重点措置」が発令される前におこないました。

支社長F氏。インタビュー直後に40代最後の誕生日を迎えた。酒好き、競馬好き、野球好き(タイガースファン)という「昭和の広告営業マンの典型」(本人談)。奥さまの話題を嫌がるが、愛妻家であることは制作スタッフの全員が知っている。宴席では料理をほとんど口にしない。酒に失礼だからだそうだ。知らんがな。

美味しいお酒を飲むために働く。
これは真面目な話

コジマ あけましておめでとうですよね? こうして飲むのも久しぶりです。

支社長F氏 おめでとうございます。いやまったく。宣言中もそれ以外のときも、ほとんど飲んでません。いまでも3人以上で飲むことはないです(*)。ツライっす。

コジマ 好きだもんね、お酒。まもなく誕生日ですね。おめでとうございます。

支社長F氏 わわわありがとうございます。40代最後の誕生日ですよ。今日は何? コジマさんを褒めればいいんですか?

コジマ 違います、忌憚(きたん)なきご意見を聞きたいの! 正月で誕生日だろうが、どうせ酒席では食べませんよね。だからつまみは勝手に頼んでおきました。お酒はじゃんじゃん飲んでください。

支社長F氏 わかりました!

コジマ 酒好きのFさんが飲みに行けないってホント辛そうね。

支社長F氏 そうなんですよ。つまるところ、わたしは得意先や仕事仲間と美味しいお酒を飲むために働いているようなものですから。

コジマ  「昭和のサラリーマン」ですなぁ。

支社長F氏 まあね。でもコジマさん、本当にそうなんですよ。仕事が調子悪いと酒も美味しくないでしょう。途中いろいろあっても、最後が上手にまとまれば酒が美味くなるし。

コジマ 美味しい酒のために仕事をがんばると。

支社長F氏 そう。例えでもなんでもなく、本当にそう思っているの。だから飲めないのは仕事のモチベーションが保てません。

コジマ 真面目な話だったのね。

代理店営業の制作仕事は
「チーム編成」に尽きる

コジマ そういえば、わたしたちが初めて会ったのも酒場でしたね。10年ほど前になりますか。仕事の相談があるってプランナー/デザイナーのOくんから電話があって、出てこいっていうからどこかと思ったら新橋の飲み屋。そんなことは初めてで、いまに至ってもありませんよ。

支社長F氏 ははははそうでした! そのあと次の店に行く途中でわたしが…(以下自粛)

コジマ そうそう! でも書けない。2軒目はゲイバーだもんなぁ。「この仕事を請けるのやめようか」って悩みましたよ。請けたけど。

支社長F氏 それ以来のつきあいですもんね。何がつながるかわかりません(笑)

コジマ あの仕事は若いOくんがコジマの名前を出してくれたんですってね。

支社長F氏 そうです。Oくんが本格的にその案件へ参画することになって、それまでのベテランコピーライターと合わない感じで。受注の経緯から仕方なかったけど、若いOくんとベテランでは難しかったんでしょうね。

コジマ うわっ首筋が寒い。わたしもあれがOくんと初めての仕事。よく選んでくれたもんだ。それに、Fさんも知らなかったわけじゃない、わたしのこと。

支社長F氏 うん知らなかった。これは私見なんですが、代理店営業の制作サイドの仕事って、スタッフのチーム編成に尽きるんです。この仕事ならこのチーム、この仕事ならこのライターとか複数を組み合わせて考えています。最後はプランナーなりディレクターなりチームの柱が決めたスタッフに任せるのがいちばん。あのときもOくんがコジマさんを連れてきたんだから、まあそれでいいかと。

コジマ 軽い扱いだ。万が一、面倒なことがおこったらどうするの?

支社長F氏 何とかなりますよ。まあ何とかするんですが。その考え方でこれまで、大けがしたことはありませんから。

コジマ カッコいいね。新橋で〇〇〇〇したくせに。

支社長F氏 書いてもいいですよ。珍しいことではありませんから。

コジマ 書きません! わたしの品格が疑われる。

支社長F氏 ハイボールお替り頼んでいいですか?

コジマ ど、どうぞ。

歓談(インタビュー)が進むも、まだ食べない支社長F氏。 「蕎麦屋なんだから蕎麦で締めましょうね」といったら、ようやく最後に食べてくれた。

お酒が飲めればいいわけじゃない。
ライターの能力はどこを見る?

コジマ チームとしてコピーライターを見ているって話しだけど、個別の能力はどう考えているの?

支社長F氏 そう細かくは見てないかも。たとえば、某医療機器メーカーの活用パンフレットをつくりましたよね。あのときは、ディレクターとしてコジマさんに最初に声をかけました。

コジマ そうでした。その理由は?

支社長F氏 紙のパンフレットをたくさんつくってることは知っていたし、医療系に強いライターを知ってるっていってたでしょ。もしコジマさんが書けなくても、その方を紹介してもらえれば問題ないだろうと。

コジマ 確かにいってた。よく覚えていましたね。

支社長F氏 仕上がりは好評で、とても喜ばれました。お酒も美味かった…

コジマ 人としてのコンテンツ=人脈ということですかね。いつもチーム編成のことを気にしているから、制作スタッフの会話も覚えているの?

支社長F氏 どうなんでしょう。もっといえば、仕事のあとに美味いお酒が飲める相手かどうかも、コピーライターの人選ポイントかもしれない。

コジマ んん? それは、酒好きコピーライターがいいということではなくて、案件に関する技量やコミュニケーション能力、つまり仕事がしっかりできる人と飲むお酒が美味しいということなんですね。

支社長F氏 そうですそうです。さすがコピーライター。まるで自分が「仕事ができる」といっているようじゃないですか。

コジマ 勘弁してください!

スタッフ選びはコンペ勝率と
受注リピート率、そして…

支社長F氏 まあ広告営業の立場でビジネスライクにとらえると、コピーライターを含むチーム編成で気にしているポイントがあります。受注率、つまりコンペの勝率と受注リピート率です。

コジマ いま思い出したかのようにビジネスライクだ。

支社長F氏 続けますよ!
コンペは取らないと仕事になりませんから、過去の勝率は当然気にします。得意先との相性などいろいろな要因があるので確率を鵜呑みにはできませんが。さらに、コンペに勝てるスタッフがそのまま継続して受注できるかというと、これもまた別な話で。

コジマ よくわかる。コンペに勝つのと継続して受注するのは別なベクトルで、得意不得意があるもんね。

支社長F氏 コンペで勝った制作チームを急に変えるのは現実的ではありません。でも、来年再来年とリピート発注してもらうために、いつもチーム編成は気にしています。もちろん、スタッフだけの問題ではないのですが。

コジマ お酒が入って本音が出始めてる。チーム総取り換えというより、一部変更という感じだよね。

支社長F氏 それはいつも。

コジマ それってコピーライターをはじめとする制作スタッフには怖い話ではあるけど、一方で新しい仕事に入り込めるチャンスでもあるわけだ。仕事ができて美味しいお酒が飲める、コンペ勝率、案件のリピート率。Fさんとしては、それぞれどのくらいの割合なんだろう。

支社長F氏 う~ん…酒4割、コンペ勝率3割、リピート率3割って感じですかね。

コジマ 酒がいちばん! やっぱり本音はそこか。

こんなことある?
広告主から提案された代理店業務の変革

コジマ ちょっと聞きにくいことがあるんだけど…

支社長F氏 何ですか怖いなぁ。もう少し飲んでからでいいですか?

コジマ もう十分に飲んでるよ。広告代理店の仕事についてなんだけど。

支社長F氏 確かに話しにくいかも。まあいいですよ。

コジマ 昔は、いわゆる4マス媒体(テレビ・新聞・雑誌・ラジオ)の広告枠をクライアントに売って、そのマージン20%が大きな収益だったじゃない。それがいま、どんどん先細っている。これからどんな商売をしていくのかなと。

支社長F氏 なるほど。特にうちは昔ながらの広告代理店というイメージで、東京支社が主要得意先のメディアバイイングをやっていますからね。気になりますか?

コジマ 気になりますねぇ。お酒頼みましょうか?

支社長F氏 まだ残ってます!
実はコロナ禍の直前ですかね。コジマさんもご存知の大きな得意先から、「御社もこれから変わっていきませんか?」と提案されたんです。

コジマ あの会社から? 

支社長F氏 はい。かつて広告宣伝で仕事をご一緒した方が地方の支社に異動して、この話をいただく1年ほど前に部長になって広宣に戻って来られてて。

コジマ 広告主から代理店に「変わりませんか?」っていう提案も珍しい。どういうことなんだろう?

支社長F氏 4マス媒体の広告枠の購入量はこれからどんどん減っていくから、それにばかり頼っているとジリ貧になる。ビジネスモデルを変えていくつもりがあるなら、当社もできる限りの協力はする――と。

コジマ これはすごい話だ。暗に広告枠の発注量を大きく減らす予定だからデジタルシフトを進めてほしい。ついては、その準備のために予算を用意する、という話じゃないですか!

支社長F氏 そうははっきりいいませんでしたけどね。数年前まで当社の売上の柱だったこの得意先の雑誌広告がすでになくなっていたんです。こちらにも危機感があったから、その話に乗りました。

もっとクリエイティブを追求した
提案があってもいい

コジマ チャンスをもらった、ということですか。

支社長F氏 そういうことです。わたしなんかは、いまだにわからないことだらけですけどね。ネットが得意な若手社員を東京に集めて、いろいろやってもらってます。彼ら・彼女らも勉強中ですが、わたしなんかより学習のスピードが全然違います。

コジマ ゴリゴリの昭和代理店のイメージだった御社もFさんも、大きく変わりつつあるんですね。なるほどなぁ。コロナ禍で広告出稿メディアが激変したなかで、あの広告主がいろいろ考慮してくれた話も聞きました。

支社長F氏  はい。「広告出稿額が減ろうが広告宣伝メディアが変わろうが、大手代理店は簡単につぶれないでしょう。でも、4マス広告以外に経験の少ない御社の場合はわからない。当社は御社に昔からお世話になってきましたし…」って。ありがたいですよね。

コジマ 実際そんな話ってあるんですね。すごいなぁ。しかし、どうして御社はそんなに信頼されているんでしょう?

支社長F氏 失礼だなぁ(笑)。いろいろあるんでしょうが、わたしは、当社の創業者や先代社長など先達の功績だと思っています。付き合いが長いだけでなく、自社の成長の一助になったという評価をいただいているのでしょう。

 コジマ なるほど。東京支社長としては、残すべき良い伝統と未来のための改革を両立しなきゃいけない時期ですね。コピーライターを含めた制作スタッフにいいたいことってあります?

支社長F氏 いいたいことっていうか、代理店の仕事の本質は調整役だと思うんです。クライアントは自社の都合を主張するし、制作サイドは自分たちの技能をもとにクリエイティブを追求する。そこに齟齬が生じるわけです多くの場合は。その調整が仕事の本質。

コジマ 俺が調整してやるから、制作サイドはもっと表現で主張してこいと。大振りした企画や表現を提案してこい、ということですね。わかりました!

支社長F氏 十分なコミュニケーションと相互理解を踏まえたうえで、ですよ。乱暴だなぁ。

コジマ ではもっと相互理解を深めましょう。ハイボールを頼みます!

【Google先生が好きな「まとめ」】
 
「チームとして機能するコピーライター」

 支社長F氏が考える「良いライター」をひとことでいうこと、こういうことです。代理店やクライアントも含めてひとつのチームと考えると、書く技術と取材能力に加えて、コミュニケーション能力も求められるでしょう。お酒を飲まなくとも。

よくいわれることですが、ライターが専門性や明確な得意分野をもつことは大事そうです。そのことをきちんと伝えることも。書くこと自体は孤独な作業ですが、チームのなかでのライターの位置づけや役割を把握して、そこで自分の能力(書くこと)を最大限に発揮することが発注に次回の発注につながりそうです。

「美味い酒が飲める仲間」って支社長F氏に限らず、あんがい大きなポイントかも。お酒が飲めなくても、酒席が嫌いじゃないだけで十分。いまはどの店も禁煙ですし!

 【お話を聞いた店】 神田 尾張屋本店


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