小島良介
自伝的小説 『バンザイ』 第二章 リンダリンダ
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自伝的小説 『バンザイ』 第二章 リンダリンダ

小島良介


  2

 今月のライブは二本決まっている。下北沢は一昨日終えたばかり。そして今日は蒲田だ。昔からよく出させてもらっていて、今でもお世話になっている、蒲田トップスという名のライブハウス。

 高校生の頃、初めてコピーバンドで出演したのが始まりだった。初めてのライブで僕はクボタたちと出会った。まだクボタとホシくんは、もう1人のメンバーを連れたスリーピースバンドだった。僕らは高校の友達や地元の友達が混ざった即席バンド。

 その日の僕らは緊張しすぎていて、演奏はもうめちゃくちゃだった。ボーカルは音程外しまくり、歌詞を飛ばすし、ギターは弦を2本も切った。ベースは鳴っているんだかいないんだか、最後までわからず終い。ドラムの僕は力み過ぎて、一曲目で体力を使い果たしてしまった。

 本番が終わり、メンバーみんなで落ち込んでいた時、彼らの演奏は始まった。入場曲があるアイドルグループの曲だったのを鮮明に覚えている。

 そこからの演奏が本当にすさまじく、衝撃的だった。技術的には自分たちと同じく下手くそなんだけど、存在感というかパワーというか、よくわからない衝動みたいなものがすごかった。
 特にクボタは桁違いに輝いて見えた。この日のステージに上がるために生まれてきたみたいだった。まさに水を得た魚状態。そして彼は、とても汚い顔で叫んでいた。そんな表情に僕の心は鷲掴みにされた。
 彼らは最初からオリジナルソングを演奏していた。それがなんともカッコよく、コピーバンドの僕らは負けを認めざるを得なかった。悔しくて悔しくて泣きそうになった。

 それから吸った揉んだあり、お互いやっていたバンドが解散し、僕は軟弱金魚というバンドに加入し、クボタの後ろでドラムを叩いている。なんとも不思議ことだ。
 
 しかし、そう上手くいくことばかりではない。早くなんとかしなければ、このバンドは駄目になってしまう。
若くいられるのも今のうちだけなのだ。早くしなければオッサンになってしまう。そうなってからじゃ遅い。若いうちにしか出せないものが必ずある。だから早く、一刻も早くここから抜け出したい。こんなところでくすぶっていてはダメだ。こんなところで留まるべきバンドじゃない。僕らは、そしてなによりもクボタは、こんなところで終わるような玉じゃない。 


 ライブ当日はほとんど食べ物を口にしない。水やお茶を飲むだけにしている。食べると身体が重くなるし、本番中気持ち悪くなるからだ。マラソンの直前に飯を食う奴はいない。格闘家だって試合前は何も口にしないはずだ。
 ドラマーはライブでの運動量が半端じゃない。その上僕はものすごく激しく叩くスタイルだ。ドラムセットをぶっ壊すようなつもりで、全ての感情や思い出、ドロドロのぐちゃぐちゃでよくわからないリビドーのようなものを、全てぶちまけるつもりで叩く。本番中はトランス&トリップで、終わった後はしばらく放心状態になる。翌日は筋肉痛でまともに動けない。

 こんなライブばかりやっていたら、いつか身体を壊してしまうだろう。それでもいい。それでも僕はそんなライブがしたいし、そんなライブしかできない。すべてを出し切らないとやる意味がない。 
 ライブといってもギャラなんてもらえるわけもなく、逆に金を払ってやっている。お客さんなんてほとんど呼べない。だから共演者やそれを見に来た人、ライブハウスのスタッフに向けてやるしかない。僕らのお客さんじゃなくても、誰かの記憶に強烈に残ればいい。そして口コミで噂が広まって、どっかのお偉いさんの耳に止まったが最後、僕らの名前が爆発的に全国に広まっていくだろう。
 コネなんてない。だからライブをするしかない。いい話なんて来たことがない。だから来るまで続けるしかない。きっといつか誰かの耳に止まる。絶対に届くと信じている。
 時間はない。一本一本が命掛けで、最初で最後なんだ。だから全てを出し切りたい。次の日のバイトがいくらしんどくなっても構わない。なんならステージ上でくたばってしまってもいい。それが一番の理想かもしれない。そうなるくらいのドラムを叩く。百パーセントの力を毎回出し切る。絶対に誰にも負けたりなんかしない。



 電車に乗っていると携帯をいじっている奴ばかりだ。ほぼ全員と言ってもいい。なんとなくそいつらと同じになるのは嫌なので、電車に乗る予定がある日は、ケツポケットに文庫本を突っ込んでいく。
 家にあるのはエッセイや自伝が多いけれど、電車に乗っている時は小説の方がいい。なるべく現実から離れたところに意識を持っていきたい。そうすれば大嫌いな電車移動も、なかなか乙なものになる。

 読みかけの小説を開き、蒲田に着くのを待った。

「コジ—、同じ電車だったんだ」

 後ろから声がして振り返ると、ホシくんが笑顔で立っていた。歯が一本欠けていて、なんとも間の抜けた顔。
イライラしている時でも、この笑顔を見ればどうでもよくなってしまうような、なんだわからない不思議な力を彼は持っている。

「うっすホシくん、今日は遅刻じゃないね」

 文庫本をポケットにしまいながら僕は言った。

「そんな毎回毎回はしないよー。この前はスロット打ってて止まらなくなっちゃってさー」

「なんじゃいその理由は。テキトーに切り上げて来なさいよ。つーかそもそもスロットなんて楽しいか? 金もないのによくやるよね」

「ごめんごめん。でも結構楽しいもんだよ。なんかこう、嫌なこと忘れて没頭できるっていうかさ、現実逃避的な感じでさ」

 僕にとっての読書みたいなものだろうか。

「でもやらない人はそのままでいいと思うけどね。俺も辞めたいもん」

「ふーん、そんなもんかねえ。で、今までトータルで勝ってんの? 負けてんの?」

「余裕で負けてるよー、だから辞めたいんだよー」

 じゃあ辞めちまえよ! という言葉は胸の内にしまい、ふーん、とだけ言っておいた。時間も金も無駄にしてよくやるよなと思う。しかも本人は辞めたがっているのにも関わらず辞められない。

 なぜなんだろう。なぜ自分をコントロールすることもできないのだろう。気持ち次第で辞めることなんて簡単にできるじゃないか。ただやらなければいい、なにもしなければいいだけなのに……。理解に苦しむが、そんな人が大半なのだろう。
 痩せられない、頑張れない、練習できない、努力できない、できないできないできないできない。そんな言い訳ばっかりが聞こえてくる。そういうやつは必ずこう言うんだ。

「行動力があっていいよね」

 馬鹿野郎。そんなもん誰だって持つことができる。それは才能でもなんでもなく、気持ちひとつでどうにでもなるものだ。何故そんなこともわからないのか。
 なんてことを考えながら、ホシくんとどうでもいい話をし、電車に揺られている。

 一見さわやかそうに見える彼。髪の毛がサラサラで、顔のホリが深く、喋らなければ女にモテるだろう。しかし、口を開くとなんだか素っ頓狂でアホみたいなのだ。常に何かに怯えているような話し方で、ちょっと何言ってるのかわからないことが多い。
 彼は小学生の頃はいじめられていたそうだ。申し訳ないけれど、そうなってしまうのもわかる気がする。しかし、そんな彼ことを僕は決して嫌いじゃない。

 何故彼はスロットなんて打つのだろうか。
 僕はあのうるさい空間が大の苦手だ。たぶん原因は、幼いころ両親によくパチンコに連れて行かれたせいだ。その時に、あのうるさくて臭くて退屈な空間が大嫌いになった。まともに話すこともできない、みんな黙々と煙草を吸っていて煙たくてしょうがない、あの地獄のような空間。 
 当時の僕は辺りをうろつき、パチンコ玉を拾って回ったり、景品のゲームソフトやお菓子なんかをずっと眺めていた。子供にとっては退屈極まりない空間。なによりもそれが一番の嫌いな理由かもしれない。

 これから向かう場所も、臭くてうるさくて似たようなものだ。しかしその中身は全くの別物と言っていい。ライブハウスは退屈しない。刺激があるし、自由もあるし、メンバーもいるし、酒だって飲める。本番中は何したってかまわない。人前で演奏してる時が一番ぶっ飛べる。その後酒でも飲んで騒げれば最高だ。
 僕が求めているのは、そんな空間なのだ。退屈なのは真っ平御免だ。

 
 車内アナウンスが目的地の到着を告げた。
 ライブハウスは北口を出て歩いて五分のところにある。駅の長い階段を下り、表へ出る。七月のくそ暑い日差しの中を歩くと、それだけで汗がにじみ出てくる。バスや車が行き交う駅前のロータリーを抜け、蝉の絶叫に少しイラつきながら歩を進め、コンビニの向かいにあるビルの地下へと下りる。

 ようやく蒲田トップスにたどり着いた。
 扉を開けると、ライブハウス特有の匂いが鼻の奥を刺激する。この瞬間がなんとも堪らない。

「おはようございまーす」

 というのはライブハウスの業界用語みたいなもんだ。朝でも昼でも夜でもそう。働いているスタジオでもそうだし、芸能界なんかも同じらしい。言葉とはあやふやなものだ。
 受付のスタッフに挨拶をし、バーカウンターを抜け、お世辞にも広いとは言えないフロアに出る。ステージではリハーサルが行われていた。

「クボタとカメはー?」

 ホシくんの耳元で声を張る。リハーサルの音で会話がしにくかった。

「まだ来てないみたいだねー」

 タバコをふかしながら僕の耳元で叫んだ。フロアの壁にもたれかかり、リハーサルをボーッと眺める。もうライブハウスは慣れきっていた。高校生の頃から出ているせいか、本番前に緊張するなんてことはほとんどない。でかい舞台ならいざ知らず、僕らは百人入ればパンパンになってしまうようなハコでしかやったことがない。

 ——なんかおもしろくないなー。

 リハーサルがつまらないバンドは、本番もつまらないことがほとんどだ。リハーサルで少しでも片鱗を見せられないバンドはダメだ。そこでも気を抜いてはいけないんだ。

「楽屋に荷物置いてくるわ」

 独り言のようにそう言い残し、僕はステージ横にある楽屋へと向かった。楽屋と言っても小さいハコなので、歩くと五秒で辿り着いてしまう。

 楽屋に入り、機材と機材の間にある椅子に座り、スティックを取り出し太股を叩く。練習をする為のパットなんて代物が存在するのだが、僕は邪魔くさくてほとんど使ったことがない。いつもこうやって練習している。そのおかげで、太腿は常に痣だらけだった。

 この練習法を始めたきっかけがある。ある有名なお笑いグループのメンバーは、元々ミュージシャンでドラマーだったらしい。僕はそれを知らず、ある時動画の演奏を見てぶったまげた。僕には到底真似できない、技巧派なジャズドラマーだったのだ。
 彼曰く、学生時代、太腿がズタボロになるまで練習したらしい。そのエピソードを聞いてから、僕は毎日太股で練習するようになった。自分自身に鞭を入れているようで、とても性に合っているやり方だ。

 ペチペチと練習していると、トップスの店長ミヤさんが入ってきた。

「おはよーっす。どうよ、調子は」

 ずんぐりむっくりとした体型、普通の接客業ではまずありえない長さの髭、頭にはニット帽、そして咥えタバコ。典型的なライブハウス店員の出で立ちだ。

「おざーっすミヤさん。調子はまあ、相変わらずですよ。月で二、三でライブやってる感じっすね」

 ペチペチと叩く手をを止めて、僕は言った。

「お客さんは付いてきた?」

 長く伸びた髭をいじりながらミヤさんが言う。喋る時にやけたような顔になり目が細くなる、いつもと変わらない話し方。

「いやー全然っす。毎回ほぼゼロって感じで、ノルマ地獄ですね。どうやったらファンってできるんすかね?」

 リハーサルの音が楽屋に響き渡っている為、語気を強めた。

「お前らなかなかいいんだけどさー、なんかとっつきにくいとこあるからなあ。もっと対バンした人達と仲良くなって交流深めていけば、色々と繋がってくんじゃない?」

 茶色いフィルターのタバコをふかしながら、ミヤさんは言った。

「交流かー。まずそもそも、絡みたいと思うほどかっこいいバンドいないっすもん。メンバーみんな社交性ないし……、いいとこと当ててくださいよー」

 僕は駄々をこねる子供のような口調で言った。

「結構当ててるつもりなんだけどなあ。お前の理想が高すぎるんだよ。うちみたいな小さいハコにめちゃくちゃカッコいいバンドなんて、そうそう出るもんじゃないからさ。そもそも最近バンド自体減ってきてるからなあ。うちも結構大変だよ」

「あー、まあ、そうですよね……」

 バンドマンに未来はないかもしれない。
 僕はスティックで太腿を強めに叩き、練習を再開した。


 音楽に人生を狂わされてから、そろそろ十年近く経とうとしている。友達とレンタルビデオショップにいる時、「これ聴いてみ」と三枚のCDを手渡されたのが始まりだった。それまで売れているJポップや、チャラチャラとしたヒップホップしか聴いていなかった人生が、この日を境に一変した。
 十四才の頃だった。

 ——なんだ、この音楽は?

 身体中に電気が走ったようだった。
 その原因を探るかのように、夢中になって聴きまくった。部屋を暗くして、布団に潜りながら、三枚のCDを擦り切れるほどに。演奏がやかましくて、今まで聴いてきた音楽とは明らかに違っていて、死ぬほどドキドキした。
 そこから週に一度、五枚のCDを借りることが習慣になった。CDをMDにダビングし、歌詞カードを隅々まで読み、歩きながらウォークマンで聴き、ライブをやっている姿を想像して、また新しいCDを借りた。

 その頃世間では、第二次バンドブームのようなものが起こっていた。様々なバンドがデビューし、テレビやラジオから毎日のように曲が流れ、その手の専門雑誌なんかもたくさん発行されていた。
 色々と聴いているうちに、だんだんと僕の耳は肥えていった。心に響くものとそうでないものがあることに気が付いた。CDを出しているバンドが、全てがカッコいいというわけではなかった。僕はいつまでも色褪せることのない、本物のバンドを探すようになった。
 そうなった時、改めてすごいと思ったのが、友達に渡された三枚のCDだった。あのバンドたちは本物だった。最初にそれを聴けたのは、ラッキーだったと思う。

 そこからは広く浅くよりも、より深く音楽を聴くようになった。いいものはいいし、悪いものは悪い。どんなものでも「カッコいい!」と、ファッション感覚で言っている奴は信用できない。本当にカッコいい本物のバンドなんて、そんなにたくさんいるワケがないのだ。
 僕は本物になりたかった。そうじゃなければ意味がないと思っていた。偽物の安っぽいメッキには、何の魅力も感じなかった。本物の音楽ができればそれでいい。それをCDに封印してしまえば、あとはどうなってもいい。作品にさえなってしまえば、半永久的に残る。僕の何かを残したいという願望は、そこで達成される。

 早くしなければならない。早ければ早いほどいい。年を食ってしまったオッサンの音より、若くてフレッシュで荒削りな音がいい。ファーストアルバムが結局は一番カッコいいのだ。二枚目からは戦略的な匂いがしてしまう。まだ何者にもなっていない、媚びもコネも金もない、初期衝動のみのファーストにすべてをぶつける。そうすれば、バンドが解散しようが死んじまおうが関係ない。むしろ死ねば伝説になる。色んな人たちが死んで、ロックは歴史を重ねてきたのだ。


「今日の対バンってどんな感じなんですかね?」

 ふと詳細を知らないことを思い出し、ミヤさんに尋ねてみた。

「あー、言ってなかったけど、今日お前らともう一つのバンドでツーマンだよ。バンド全然集まらなくてさー。今リハやってるのはうちの系列のスタッフだよ。メンテも兼ねてね。でもよかったじゃん。ツーマンできるなんてなかなかないよ?」

「えっまじっすか? ツーマン、かー……」

 そんなことは一切聞いていなかった。

「まぁツーマンだからってノルマが増えるわけじゃないし、売れた時の予行練習だと思って頑張ってよ」

 ミヤさんは瞳が見えなくなるいつもの笑顔でそう言うと、僕の肩を叩き、灰皿でタバコをもみ消し、楽屋を後にした。
 なんだか僕は、一杯食わされたような気分になった。
 入れ替わりでホシくんが入ってきた。

「ホシくん、今日はどうやらツーマンライブみたいだよ」

「え、ツーマンてうちらともう一バンドだけってこと?」

 ホシくんがギョッとした顔で言う。

「そうみたい。今音チェックしてるのはスタッフだってさ」

「そ、そうなんだ」

 ホシくんはタバコに火をつけ、地面をジーッと見つめたかと思うと、何かに気が付いたように言った。

「でもさ、ツーマンってさ、やったことないし、結構楽しそうだよね」

 僕は不安しかない。

「確かにそうかもしれないけど……、今日ホシくん誰か呼んだ?」

 頭を掻きながら、首を横に振るホシくん。

「ユキちゃんなら呼べば来ると思うけど……」

 ユキちゃんとは、ホシくんが長年付き合っている彼女のことだ。
 もう五年以上付き合っているらしい。この人と五年間も付き合うなんて、どうかしてしまっているとしか思えないが、とてもいい子なのだろう。しかしそんないい子一人を呼んだところで、何が変わるわけでもない。客席がすっからかんのツーマンライブには変わりはないのだ。

「そっか、まあそれはホシくんに任せるよ。どうすっかなー、ってやるしかないんだけどさ」

 どうしたもんか。クボタ達はまだ来ない。ツーマンならリハーサルも好きなだけできるはずだ。しかしまだ僕らには、ツーマンをやる覚悟も曲数も器もない。

 今のメンバーになってから一年ちょっと。曲数は十もない。新曲ができるペースは、とてもじゃないけど早いとは言えない。
 クボタが弾き語り状態の曲を持ってきて、それをスタジオでみんなでまとめて新曲は出来上がる。とは言っても、ホシくんとカメはコードを覚えるだけで、そんな難しいことはしていない。曲をバンドサウンドにアレンジしていくのは僕とクボタが中心だ。そういった作業にはやはり、音楽的センスがいる。
 
 僕はたまたま生まれつきリズム感が良く、音楽もたくさん聴いてきたので、曲作りは身体が勝手に動く感覚でできる。クボタも音楽理論こそ勉強していないが、野生的で独特な音楽センスはかなりのものだ。作詞やMCでのワードセンスも光るものがあり、唯一無二と言える。僕がメンバーとして入る前は、新しい曲をポンポンライブでやっていたイメージだが、最近はどうもスランプのようだ。そのあたりも改善してもらいたいものだが、今はそんなことを考えている場合ではない。


 ガラガラっと楽屋の扉が突然開いた。

「おいーっす。お、もう来てたのか」

 クボタいつもと変わらぬ調子で言った。後ろにはカメもいる。

「あれ、なんか今日人少なくね? リハ誰もやんない系? っていうか二人ともなんでそんな深刻な顔してんの? ホシくんまたスロットで負けたのか?」

 僕は事情を説明した。薄い扉越しにあるステージのリハーサルは終わったらしく、楽屋は僕の声だけが響いた。

「うおー、まじかよ。そんなやる曲ねーぞ。しかも俺、体力持つかなあ」

 背が高く、肉付きのいいクボタ。運動はまるでしていなそうな体型。しかしガタイがいいせいか、歌唱力はそこそこある。大きな二重瞼がキラキラと輝き、嬉しそうな表情だ。

「まぁいいじゃん。なんか高校の時みたいじゃね? なんなら久々にコピーの曲もやっちまおうぜ」

 大きめの革ジャンを着こなし、パーマを当てたようなウェーブヘアーのカメ。やはり心配よりワクワクの方が大きいようだ。冷静で頭は切れるが、事バンドに関しては非常に楽観的である。

 僕は半々といったところ。手放しでは喜べない。
 客も呼べなければ、バンドの繋がりもない。売れる気配も、今のところはない。もうバンドとしての初期衝動はなくなりかけている。
 ホシくんはボーッとしていて、あまり何を考えているのかわからない。カメは楽しければいい様子。クボタはステージ上でこそ輝いているが、一旦そこを降りてしまうと、ライブ中のような鬼気迫る勢いは、まるで感じられなくなる。やはりみんな学生ノリが抜け切れておらず、僕一人だけが焦燥感に駆られているように思える。

 なんだこの不甲斐なさは。こんな望んでもないツーマンなんて、嬉しくもなんともない。

「まぁとりあえず楽しもうよ! セットリスト決めよ」

 僕の気持ちを知ってか知らずか、ホシくんが手を叩きながらそう言い、みんなでやる曲を決めた。

 もちろん持ち曲は全てやる。数えてみたら出来るものは八曲あった。いつもは待ち時間三十分で五曲やる。セットリストはここ三ヶ月くらい変わっていない。これも由々しき事態だ。
 残りの忘れかけている三曲はリハーサルで練習することにした。今日は好きなだけやっても誰に文句言われることもないだろう。
 
 ステージ上が片付いたようなので、僕らはセッティングに取り掛かった。リハーサルは全力でやる。やらないと気合が入らないし、テキトーに音を出して、見ている人間に舐められたくない。ライブと同じようなテンションでやらないと意味がないのだ。

「じゃあドラムさん全体でリズムくださいー」

 ステージの正面、梯子を登った所にある天井スレスレのスペースから、店長兼音響のミヤさんが言った。

 僕はゆっくりとしたエイトビートを叩いた。なるべく全ての音を出すようにする。ハイハットは開けたり閉めたりして、あまり使わないロータムも多めに叩く。トップスは小さいハコなので、クラッシュシンバル類にマイクは立っていないが、それでも一応シンバル類もたくさん叩いておく。昔はリズムでくださいなんて言われても、何を叩けばいいかわからず慌てふためいていたが、今は違う。人間慣れてしまえば、大抵のことはすんなりと出来てしまうものだ。

「じゃあ次は曲でお願いしまーす」

 とミヤさんが言った。

「なにやる?」

 と黒いSGギターを構えるカメ。

「なんでもいいよー」

 と赤い安物ベースのホシくん。

 僕は無言で頷いた。

「じゃあー、ルーズソックス is 凶器で」

 久保田がそう言うと、カメの歪んだギターリフが始まり、その後ドラムとベースが同時に入る。イントロから久保田が叫びを入れ、Aメロへと繋がっていく。
 叩きながらゾワゾワッと鳥肌が立つのを感じた。全身の毛穴が開き、汗という汗が身体から吹き出るような感覚。
 やっぱり大きな音を鳴らすのは、どんな時でも気持ちがいい。僕は本番さながらにドラムを叩いた。

 たっぷりとリハーサルをやらせてもらい、なんとか形にはなりそうだった。

 クボタは曲と曲の間の喋りが長いので、いつも時間が押してしまうことが多いけれど、今回はむしろ余るくらいだろう。なんせ持ち時間は一時間もある。ミヤさんはいくら伸びても構わないと言っているが、やりたくても曲がないんだよこのヒゲ野郎。

 リハーサルで汗だくになり、濡れた服をパタパタと扇ぎながら、一旦機材を楽屋に置き、僕はライブハウスの階段を上った。
 外はまだ明るい。この時期の夕方はそれほど激しい暑さではなく、ぬるい風が火照った身体を冷ましてくれた。歩いて十秒のコンビニで、水と小さなチョコレートを買い、ライブハウスの周りを散歩しながら食べる。いつものルーティンのようなものだ。

 今回のライブは成功するのだろうか? ふとそんな疑問が頭に浮かんだ。そもそもライブの成功ってなんだ?
僕らは何のためにライブをやっているんだ? 
 第一にまず、やりたいからやっているのだろう。しかし友達も少なければファンもいない。バンドとしての交流もほとんどない。僕ら目当てに来る人はほぼ皆無だ。だから対バンやそのお客さん、またはライブハウスのスタッフを狙うしかない。ミヤさんになんて毎回見せているんだから、新しい人をターゲットにしなければならない。
 しかし今回はツーマンだ。他に対バンが四バンドいれば、単純計算で十五人くらいに見てもらえるが、今回は一バンドなのでせいぜい三、四人。プラスそのバンドのお客さんだが、そんなに呼べるとは思えない。きっと僕らと似たようなものだろう。
 そんなライブに果たして意味はあるのか? ノルマ代だけ払って、ガラガラのフロアで長い時間やって、何の意味がある? オナニーじゃないのか? 

 僕はもう二十三才だ。そんなに若くはない。十代の頃周りにいた奴らはみんな辞めていった。その中には仲のいい奴らもいた。もうみんな立派な社会人だ。

 今の時代にうるさい音楽なんてそぐわない。売れているバンドもいるにはいるが、生活はそんなに裕福ではないらしい。メジャーなバンドもバイト生活だったりすると聞く。なんとも世知辛い話だ。
 夢はない。だったら、刹那的でいいから、燃え尽きるしかない。
 このままではダメだ。あと数年で二十七才になってしまう。伝説の人達が死んでいった年齢になってしまう。早く何か成し遂げなければ。ここのままただのオッサンで終わるなんて、絶対に死んでも御免だ。


 時刻は十八時。まだまだ外は明るい。そろそろオープンの時間の為、ライブハウスに戻る。十八時半から最初のバンドが始まる。僕らは二番手と言う名の最終兵器。こうなったらもうやるしかない、と腹を括った。

 ライブハウスの階段を下りる。トップス特有の匂い。これを嗅ぐと一気に気分が高揚し、心臓が強く高鳴る。バンドマンはみんなきっとそうだ。この匂いを嗅ぐために、アホの一つ覚えのように、ここに集まっているのだろう。

「なんかもう一つのバンドのリハ見たけど、すごかったよ」

 苦笑いのような表情をしたホシくんが話しかけてきた。

「へぇー、そうなんだ。上手かった?」

「いやー、なんかその逆っていうか、めちゃくちゃだったよ。高校時代の俺らよりひどい感じで」

「まじっすか……」

 よりによってそんなバンドとやらなきゃいけないのかよ。どうなっちゃってんだよ。頼むぜミヤさん。頼むぜロックの神様。

 バーカウンターに長髪の男が二人。一人は眼鏡で、一人は金髪と黒髪が混ざった、見るからにヤバそうな人。そして若い男が一人。幼顔の女が一人。この集団がその下手くそなバンドなのだろうか。
 特に会話はしておらず、全員がうつむき加減でタバコを吸っている。話し掛けにくいオーラ全開だ。さらに全員酒まで飲んでいるようだ。
 
 そろそろライブが始まる時刻。店内には知らない海外のバンドの曲が流れている。四人組はそろりそろりと楽屋へ消えていった。
 僕は彼らに軽く会釈をしてみたものの、返されたかどうかはわからなかった。オープン時間を過ぎたライブハウスは、うす暗過ぎてよくわからない。

 対バンの人達とはいつもほとんど会話をしない。というかできない。メンバーみんなそうだ。戦略的なことは一切できない真っ直ぐな奴ら。そこがいいところでもあり、悪いところでもあるんだろう。腹黒くないといけないのはわかっている。しかし、ヘコヘコ頭を下げて、思ってもないことを言うなんてできない。そんなのその辺のスーツを着た大人と変わらない。
 
 十八時半になった。四人組はゾロゾロと楽屋からステージへと上がる。緊張しているのか、四人の顔は険しい。年齢がいくつなのかもわからない。

 周りを見渡すと客は一人か二人のがらんどう。僕らを見に来ている客はおそらくゼロ。メンバーの四人はフロアに勢揃いしている。もうここまで来たら知ったこっちゃない。この状況でやれるだけのことをやってしまうしかない。

 店内のBGMが段々と大きくなり、不快感を抱く直前でフェードアウトしていく。ライブスタートの合図だ。こんな時でも、この瞬間はドキドキする。

 さあ、どんな音を鳴らしてくるんだ?


「ガラガラのライブハウスでツーマンライブ。対バン相手も知らねえ。俺らは結成したばかりでライブハウスが怖くてしょうがねえ。だけど俺らはやるんだ。逃げやしねえ。喧嘩屋、始めます」

 ステージの下手に立っているベースの男がしゃがれた声でそう言うと、ボーカルがアカペラで曲を歌い出し、それに続くようにドラムがフォーカウントを入れた。
 馬鹿でかい音が鳴る。歪み過ぎのギターに、でか過ぎるベースの音。リズムがよれよれのドラムに、ボーカルが歌を乗せていく。

 ——この曲は……。
 
 知っている曲だった。何度も何度も繰り返し聴いた曲。あの日レンタルビデオ屋で、友達に手渡されたCDに入っていたバンドの代表曲。ライブハウスに出るような人間は全員知っているはずだ。でも僕が知っているそれとは何か違う。
 男の曲を女が歌っているので、音域が合っていない。声が楽器に負けていて、音程もへったくれもない。
 
 ベースの男は一曲目から服を脱ぎ捨て、全裸で暴れまわっていた。弦なんかちっとも弾いちゃいない。ギターはボーカルの声をかき消しているし、エフェクターで強く歪ませているせいか、ただのノイズにしか聴こえない。ドラムは相変わらず下手くそなリズムをキープしている。にも関わらず、両手には艶のある革製の黒いグローブが填められている。

 なんなんだ、この人達は。

 意味があるようでないようなフレーズを繰り返すこの曲。シンプルで誰でもすぐ覚えられるほどキャッチー。あのアルバムの一曲目に収録されている、何万人もの人々を熱狂させたこの曲。

 僕はいつの間にか笑っていた。あまりにも下手くそな演奏と、あまりにも一生懸命な人達。ライブハウスでコピーバンドをやることの懐かしさと、その選曲のバランス。すべてが予想もつかない形で混ざり合って、それがなんとも可笑しかった。

 身体が自然と動き、一緒になって歌っていると、なんだか涙が出そうになった。あたりを見回すと、クボタもホシくんもカメも、みんな同じように笑っていた。

 なんだろうこの感覚。

 忘れかけていたことを思い出したような気がした。そうだ、僕らは昔、こういうことをしていたんだ。あのバンドのようになりたくて仕方がなかった。なれると信じて疑わず、全然上手く演奏できなくても、それでも必死に真似をしていた。
 そこは上手いとか下手とか、売れるとか売れないとか、カッコいいとかカッコ悪いとか、まったく関係のない世界だった。ただ音を鳴らすことが楽しくて仕方がないだけだった。心の中の青い炎がまた燃え始めたような気がした。そんなライブを、確かに僕たちは観たんだ。

 喧嘩屋と名乗るそのバンドは、次々に曲を演奏した。全ての曲が下手くそ過ぎたけれど、そんなことはもうどうでもよかった。僕らは笑い、踊り、そして歌った。
 こんなにカッコ悪くてカッコいいバンドは初めてだった。演奏のクオリティなんて全く考えていない、衝動のみのステージ。背が高い裸のベーシストと、背の低い女ボーカルのアンバランスさが、なんとも絶妙だった。


「俺はねえ、カッコいい事なんてできないっすよ。オリジナル曲だってないっすよ。でもねえ、俺はこいつらをステージに立たせてやりたかったんですよ。いきなりのツーマンでこいつらずっとビビってんすよ。だけどねえ、ライブ始まったらこいつらすげー楽しそうにやってんだよ。俺はそれが嬉しいんだよ。こいつらはまだ高校生で、俺はもうすぐ三十だけど、みんな同じ高校なんすよ。ドラムのジンちゃんは俺と年近いけど、ギターのナカとボーカルのユメは十七なんです。一回りも年違う子たちとバンドやってるんです。もう俺の人生むちゃくちゃだよ。なんで今更高校行ってコピーバンドなんかやってんだよ。自分でもわけわかんねえよ。……でもいいじゃん。今めちゃくちゃ楽しいよ。こんな奴が一人ぐらいいてもいいでしょうよ。今日は時間たっぷりあるから、時間押しても文句は言わせねえ。ここに立ててることを俺は誇りに思う。今ベロベロで何言ってるか自分でもわからねえけどいいんだよ。俺はこいつらが大好きなんだよ。まだまだ曲やるから黙って聴けっつってんだよ!」


 そう言うと、ベースの男はウイスキーのボトルを一気に飲み干した。次の曲が始まる。この男はまともに演奏する気など1ミリもないらしい。グダグダのビートに合わせてベースを叩き、裸で踊り狂ってるだけだ。ロックだとかパンクだとか、そんな言葉では表せないステージ。
 僕はとてもおもしろい人を見つけた気がした。こんな変な人、今まで観たことがない。絶対仲良くなれると、そう確信した。

 喧嘩屋のステージは、最後にベースの男がドラムセットに突っ込んで、人も機材も酒もタバコもぐちゃぐちゃな状態で終了した。店内にまたBGMが流れ始めた。

 僕は少し放心状態でフロアに立っていた。言葉は必要ない気がした。僕らは静かに楽屋へ向かった。
 汗まみれの喧嘩屋のメンバーが笑いながら出てきた。僕らもそれを見て笑い返した。

 次はこっちの番だ。やれるだろう? あんなライブを見せつけられたんだから。


 そして僕らは演奏した。ただガムシャラにやるだけだった。
 僕らの演奏はどうだったんだろう。あの人達の目にどう映ったんだろうか。何も覚えていない。自分たちがどうだったかなんてわからない。わかるわけがない。ステージの上で必死に音を鳴らして、気付いた時にはもう終わっているのだから。
 明日の予定も、その先の未来も、めんどくさ過ぎる日々の煩わしいことも、すべて忘れて、何も考えず、その場に自分の細胞を、全て出し切るように。

 八曲やって体力は底を尽きた。喧嘩屋のステージに触発されたせいか、クボタの喋りはいつもより長く、饒舌だった。こういう時は大抵いいライブになる。

 クボタにはメンバーを引っ張っていく力は無いが、才能とセンスだけはしっかりと持っている。それがあるだけで十分だ。ないバンドが多すぎる。いくら努力しても得ることができないもの、先天的な能力、華。ボーカルにはこいつが必要不可欠だ。クボタの横にいればはっきりとわかる。僕はそんなものを持ち合わせていない。
 だからこそドラムを叩く。最大限にこいつを輝かせる。そこに全てを懸ける。メンバーを引っ張れなくたっていい。それは代わりに僕がやる。そんな簡単なこと、いくらだってやってやる。


「今日なんかよかったじゃん」

 ずぶ濡れの身体でクボタに声をかけた。

「へへ、あんなライブ見た後だったからな」

 そう小さく笑いながら、タバコの煙をゆっくりと吐き出した。彼もまたずぶ濡れだった。

 僕とクボタはあまり会話をしない。音楽だけで繋がっているようなものだ。ただ、クボタの音楽的センスや人間的な魅力は、誰よりも理解しているつもりだ。だからそんなに話す必要もない。とにかくクボタはクボタのまま、ステージに立ち続けてくれさえすればそれでいい。言葉なんて必要ない。音楽さえあればいい。

 喧嘩屋のベーシストはヒデという名前だった。ライブが終わった後、泥酔状態で話し掛けてくれた。本番後もずっと彼は上半身裸だった。遠くから見ると完全にやばい人だけど、話してみるとかなり気さくでやわらかい印象を受けた。ギターとボーカルの子は本当に高校生らしい。話してみるととてもシャイで、かわいい子達だった。本番前の張り詰めた緊張感は、もう全くなくなっていた。


「軟弱金魚すげーよかったよ。俺はああいう泥臭いライブするバンドが好きなんだ。バンドマンなんてみんなカッコつけてばっかで、大事なものもわかってない奴ばっかりだけどさ、君たちはなんか違う気がするよ。純粋に音楽やってるって感じがする。俺はずっと音楽やってきたわけじゃないし、今はこんなことしかできないけどさ、ずっと大好きで色んなものを聴いてきたんだよ。だから君たちがどんな人なのか、どんな気持ちで音楽をやっているのか、音を聴けばわかる気がするんだ。みんな音楽しかない音楽しかないって言うけどさ、俺はそんなことないと思うんだよね。周りを見れば大切なものがたくさん転がってるのにさ、それをわかってない奴が多すぎるんだよ。一番大切なのは何かってことを。カッコつけてウソばっかりの音楽なんてまじでクソだせえよ。そんな奴らたくさん見てきたけど、軟弱金魚はそうじゃないってわかるよ。なんか俺と同じ匂いがするんだよ。今日君たちと会えてよかった。ツーマンとかいってまじでやりたくなかったけどさ、やってよかった。なんか今日はいい日だよ」


 僕らは終電ギリギリまで飲んで騒いでいた。こんなことは本当に久しぶりだった。高校生二人も泥酔していたので、僕らも負けじとしこたま飲んだ。昔に戻ったような気分だった。ここにいる時だけは、現実も嫌なこともコンプレックスも忘れてしまう。ライブハウスはそうあるべきだ。

 金なんてどうでもいい。大人の話をここに持ち込まないでくれ。いつだってここは僕たちの遊び場で、どんな場所よりも自由で、好き放題やっていい空間なんだ。上手く大人になれないのは悪いことじゃない。何の疑問も持たずに、社会に溶け込んでいるあいつらの方がおかしいんだ。
 僕らは変わらない。いや、例えメンバーが変わってしまったとしても、僕は変わらない。ウソついて疲弊して摩耗してつまらないオッサンになっていくそんな人生、何が楽しい? 好きなことを好きなだけ自由にやって、ワーッと騒いでワーッと死ねばいい。いつまでもぐだぐだ生きていたくなんかない。太く短い人生でいい。
 幸せなんていらないし、安定もいらない。未来も子孫も金もいらない。そんなのどうだっていいから、どうか今だけは輝かせてほしい。永遠じゃなくていい。ほんの少しだけいい。花火のように大きく打ち上がったら、その後はもう、どうなったって構いやしない。
 

 僕は最終電車に揺られながら、いつまでもいつまでも、そんなことを考え続けていた。なんだか無敵になったようで、このままずっと永遠に、夢見心地な電車に揺られていたい気分だった。

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小島良介
作家みたいなもんです