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宇宙でもインフレが起こっていた

最近は、物価の急激な上昇、いわゆるインフレ(インフレーション)が世界的に懸念されています。

実は宇宙にも「インフレ」があった、という説はご存じでしょうか?
しかも諸説のうち、観測に見合っているため有望視されているものです。

丁度それに絡んだ記事が最近載っているので、紹介してみます。

要は、
宇宙の始まりは極めてエントロピー(無秩序の度合い)が低く、初期は弾んだり冬眠したり、あとは急激に膨らむインフレーションモデルが提唱されている
という話です。

特に、最後のインフレ―ション理論は、既に教科書では定番にもなっていると思います。
たとえば、Webで見れる天文学辞典でも、下図のように書かれています。

出所:天文学辞典「インフレ―ション理論」

初めにエントロピーという混沌な度合を表す専門用語が出てますが、いってしまえば自然な概念です。
例えば部屋を片付けずに放置しておくとぐちゃぐちゃになりますよね。
これを「エントロピー」が増えたと呼び、物理の熱力学の分野では
「物事は放っておくと無秩序な方向に向かい、自発的に元に戻ることはない」
という法則があります。

エントロピーは、各分野で使われる用語なので、若干定義を確認した方がいいです。
例えば、物理学から生命科学に転向したシュレディンガー(猫のたとえでも有名)は、我々の生命活動を例えて、

我々は負のエントロピーを食べている、つまり生命はエントロピーを外に吐き出して、自らの秩序を保っている
と名著の中で喝破しています。


話をインフレーション理論に戻します。ちなみにこれは本当に物価のインフレから取っています。(当時もインフレだったから、と聞いたことがありますが裏はとってません)

冒頭記事では、アラングースという科学者が1980年に提唱したとありますが、実は日本の佐藤勝彦さんも同時期に同じ概念を提唱しています。

どちらが先か、という話もいくつかあり、たとえば下記Blogはそれを公開情報からたどっていますので、関心のある方は覗いてみてください。

誰がはともかく、そもそも有名な「ビッグバン」と同じような響きを持つ言葉に、疑問を持つ方はいると思います。

ビッグバンは、1940年代にガモフ(名前の由来は論敵ホイルによる揶揄的な表現)が提唱したモデルです。

ただ、後世の観測結果から、ビッグバン理論だけでは解明できない謎が生じてきました。
1つだけあげると、のっぺり過ぎているという問題です。(平坦性問題

真水が入ったコップにインクを一滴垂らしたと想像してみてください。

そのコップ自体が大きくなるのがビッグバンのイメージです。イメージしていただけると思いますが、普通はインクによるムラが生じます。

それなのに、観測結果によるとどの方向を見ても、理論が予想するムラが見当たらないという謎です。

結論は、ビッグバンの直前にインフレーションというさらに急激な膨張作用が起こっていた、というモデルの導入されることでうまく説明がつきました。

このインフレーションを起こす機構自体は厳密にはまだ仮説の域を出ていません。いまでもインフレーションというアイデアを元にしたいろんなモデルが色々と提唱されています。

例えば、2018年に亡くなったスティーブンホーキングの最後の論文も、インフレーション理論に関するものでした。
難解すぎて初めての方にはお勧めはしませんが、その論文も和訳で解説された書籍も出版されています。


さて、インフレーション理論によると真空から負のイントロピーが誕生したことになり、この急激な膨張から、(我々が日常でイメージ可能な)イントロピー増大則を伴う宇宙時空の旅が始まります。

この誕生を「泡」で例えることがよくあるのですが、この泡は1つでないといけない理由が全くないわけです。むしろ1つのほうが謎なぐらいです。

ということで、この泡がポコポコ誕生するモデルを「多元宇宙モデル」と呼びます。
初めて聞く方には腹落ちはしないと思いますが、普通に教科書でも載せています。(改めて天文学辞典掲載の写真を引用)

出所:天文学辞典「インフレーション理論」

よく混同されがちなのは、「多次元宇宙」です。
これは、「1つの宇宙の中に」我々が日常で感知する4次元以上の次元が存在する、という仮説です。

万物理論候補の「超ひも理論」も多次元で構成されたものですね。関心のある方は、過去そのイメージを描いた投稿を載せておきます。


厄介なのは、この多元宇宙間は文字通り異世界の話で、他の宇宙を観測することは原理的にできません。

したがってこのモデルを追求することは、ある意味哲学的な問いに近づいてしまいます。

そして我々の宇宙があまりにも都合よい状態(物理定数が少しでも変わると確かに宇宙は不安定になります)で安定していることから、
我々人類が存在しているからこの宇宙がある
という思い切った仮説が登場してきます。

これは「人間原理」と呼ばれます。いくつかタイプがあるので、もっと知りたい方のためにWikiを引用しておきます。

それぞれの意見のあることは尊重しますが、私自身はある意味ご都合主義、もっといえば「思考停止」に感じます。

宇宙は我々のために存在しているのではなく、いつかは自然科学で解明出来る深遠な謎がある。

完全といえない科学という道具を常に磨き続ける姿勢が、持続的な発展に繋がるのではないかと、やや殊勝なコメントで締めておきたいと思います。

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