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第6の指と身体拡張の可能性

「猫の手も借りたい」ということわざが、いつかなくなるかもしれません。
そんなどうでもいいことを思った興味深い研究発表がありました。

要は、
置き換えでなく独立制御可能な6番目の指を開発して、身体感覚を持たせることに成功した、
という話です。

元々、義手のように身体損傷を置き換えることはありましたが、今回はあくまで「拡張」です。
腕の筋肉反応を感知して人工指を制御する仕組みを開発しました。
上記のYoutube動画が、2分程度でとても分かりやすく表現しているので、関心を持った方は視聴してみてください。

自分事で想像すると、結構制御が難しいと思いますが、実験ではたったの1時間で慣れたとのことです。

ここがポイントですね。

実は、脳は身体感覚の変化に柔軟に適応可能、ということは以前から知られていました。

ホムンクルスの可塑性」と呼ばれることもあります。

ホムンクルスと聞くと漫画や映画でも見かけますが、元々は中世に生み出された架空の人造人間です。

それが別の意味を帯びたのが、20世紀中ごろのペンフィールドという脳科学者による研究です。

元々病気治療目的で、脳の大脳皮質(身体知覚処理)に電気で刺激を与えることで、身体部位との対応関係を特定しました。

その反応強度に応じて大きさを表現した表現を「ペンフィールドのホムンクルス」と呼びます。脳内小人ともいわれます。

理屈はともかく、その実験結果を引用してみます。

出所:脳科学辞典「ペンフィールド」
出所:Penfield and Boldrey

特徴的なのは、顔(唇)と指が大きいことですね。他にもいろんな小人バージョンがあるので同名で検索してみてください。(なかにはちょっと気持ち悪いものも^^;)

さて、脳と運動の部位対応が分かると同時に、その変化適応力が高いこともわかってきました。

もう1つ有名な実験を紹介します。

1990年代に米国の大学で行われた「ゴム製の手の幻想」というものです。

シンプルに言うと、義手(被験者には本物でなくこれしか見えてない状態)に本当の手と同じ感覚を同時に与え続けると、本物と錯覚してしまう、というものです。
錯覚した状態とは、例えばその義手を針で刺そうとすると、本物の手が刺された時と同じ脳反応を示しました。

この結果は、いかに我々が脳の処理に依存しているのかを示すとてもおもしろい実験だと思います。

まとめると、脳と身体とは「ある程度」独立したものとしてみなせる、ということです。(さすがに100%とは断言しません)

そして冒頭の研究発表は、人間が生来的に持つ身体の拡張性を高めた(脳が適応可能)といえます。

最近話題のメタバース(仮想社会)でも、アバターという自分と違う存在で操作します。
うまく設計することで、脳から見ると物理世界と同じ存在としてみなせるのかもしれません。

ただ、それを悪い方に推し進めると、映画の「マトリックス」があながち否定できず、若干怖い気もします。

ぜひこういった実験は倫理面も併せて議論を深めていきたいですね。

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