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【書評】久保文明・金成隆一『アメリカ大統領選』--大統領って何?

 4年に1回必ずやってくるアメリカ大統領選だが、テレビで見ても新聞で読んでもさっぱりわけがわからない。聞いたことがない人が有力候補だと言われ、知らない間に脱落したと言われ、あるいは誰それ、と思っている間に勝ち進み、気づけばアメリカ大統領になっている。
 しかもその人の意向が、アメリカだけでなく日本を含めた世界中の今後を左右している。日本にも影響があるなら、なんで日本に住んでいる我々には選ぶ権利がないんだよ、といった根本的な疑問はさておき、いったい大統領はどうやって選ばれているのか、ということを事細かに記したのがこの本だ。
 読んでみて初めて知ったことがあまりにも多くてびっくりした。たとえばアメリカ大統領候補は事実上4年間ばっちり選挙運動をやり続けている。惜しいとこで落ちてまた挑戦するとなれば8年間、選挙運動だけをやる。こうなるとアメリカ大統領候補という名のフルタイムの仕事で、そういう人がいること自体不思議だ。
 大統領候補が献金として集めるお金の額も桁外れで、しかもアメリカ合衆国はめちゃくちゃ広いので、有力候補は各自ジェット機を持っていて、ものすごい勢いで国中を回る。なんなら報道陣に取材して欲しいので、もう一台彼らに飛行機を使わせたりしている、というのも驚いた。
 スケールが大きすぎて、もう何だか訳が分からない。並大抵の大金持ちだってこんなことはできないだろうに。庶民の味方と言いながら、莫大なお金を使って選挙運動をしないと箸にも棒にもかからない、というのはなんだかめちゃくちゃ問題があるような気がする。
 僕がいいな、と思ったのは今大統領になっているジョー・バイデンの話で、中流こそアメリカのアメリカを支えている、と彼が語ったことが勝利の原因になったというのは悪くない話だ。
 会社の経営が良ければ恩恵を受けるのは経営者と株主で、逆に経営が悪ければ打撃を受けるのは労働者、こういうのおかしいですよね、というバイデンの議論は染みる。一言で言えば、まともな人がちゃんとまともに大統領になってるわけで、アメリカの民主主義も悪くないな、と思わさせてくれた。
 自分がアメリカ研究を志してからかなりの年月が経が、それでもアメリカ大統領とは何かについて初めて知ったことも多かった。だからこの本の著者には感謝しかない。

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