見出し画像

【書評】猿谷要『西部開拓史』--読者のものの見方を変える

 とにかく文章がいい。読んでいて気持ちが乗ってくる。著者が体験したエピソードトークから西部開拓やカウボーイの話、そして西部劇で有名なガンマンの打ち合いの話など、キャッチーな話題が続く。
 しかも膨大な歴史の知識に裏付けられているので強烈に勉強にもなる。結局のところ、西部開拓史というのは東部の白人から見た呼び方で、逆にネイティブアメリカンから見れば、これはネイティブアメリカン虐殺史となるだろう。
 日本で広がっている西部のイメージを使いながら、徐々に読者のものの見方を変えていく、という猿谷の手法は素晴らしい。
 西部の州では女性の数が少なく、したがって東部より女性の地位が高くなり、女性参政権が広がったのも西部の州からだったという話。あるいは、カウボーイの1/3は黒人だったという話。アメリカとメキシコの間に戦争が始まった1846年、カリフォルニアにはアメリカ人が1000人程度、そしてメキシコ人は1万人ぐらい、最も多いのはネイティブアメリカンで20万人、というのも知らなかった。
 楽しくお話を読みながら、気づけば理解が深まっている、というのは新書の鏡である。この40年前の著作がいまだに書店で新品として買える、という幸運が信じられない。

この記事が参加している募集

新書が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?