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【書評】菊池真理子『「神様」のいる家で育ちました』--自分自身を見出す

 とにかくあとがきがすごい。この本が出来た経緯が書いてあるのだが、面白いと編集者に言われていちどは連載が続いたものの、途中である宗教団体の抗議を受けて中断してしまう。だが文藝春秋社に引き受けてもらって、ようやく刊行にこぎつける。
 著者は言う。信者さんの気持ちを傷つけると言う理由で一度は連載が打ち切られてしまった。ならば宗教二世の苦しみは無視されていいのか。実際にこういう人たちがいるのは事実ではないか。著者本人も宗教二世なだけに、この言葉は重い。
 本編は様々な宗教に属している、あるいは属していた宗教二世たちが苦しみ、悩み、果てに脱会したり、親と絶縁したり、あるいは再び宗教を受け入れたり、とそれぞれの人生を選んでいく様が描かれている。
 その一つ一つが重く深く、実に考えさせられる。と同時に、彼らの経験がそこまで特殊なものなのか、とも思った。
 ごく普通と言われている家庭でも、親の偏った価値観や奇妙な性格の歪みで子供達は苦しんでいるのではないか。最初は親の世界観が全てだと思うが、徐々に外側の世界を知るにつれ、自分でも考えるようになる。そうやって少しずつ親から距離を取りながら、自分が何者なのかを見出していく。
 いや、こうしたプロセスは家庭だけでなく、教育の場においても同様に起こっているだろう。学生に何者も押しつけることのない教育は教育の名に値しないだろうし、だが学生の自由を一切認めない教育も間違っている。ならば答えはどこにあるのか。そのことを深く考えさせられた。

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