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【書評】坂口恭平『よみぐすり』--欠点は直さない

 たまたま高田馬場の芳林堂に寄ったら、店頭でこの本が目に飛び込んできた。サイン入りだというので、なんだか自分に語りかけてきているような気がして、すぐ買ってしまった。

魂感じるよね!


 買ったあとでわかったのだが、Twitter の言葉を編集者が選んで並べている本らしい。おかげですごく読みやすくて、キャッチーで、すぐに読み終えてしまった。
 坂口恭平が言っているのは要するに、自分の好きなことは何かを自分にちゃんと聞いてみよう、って話で、そこから生きる力が湧いてくる。そんでもって、気持ち良さに引っ張られて動いていると、だんだん調子も上がってくる。これは全くの真実だと思う。
 作るという話もすごく良かった。とにかく気の向くまま、作りたいものを作り続ける。評価とか報酬とか関係なく、ただ作る。なぜならそれは生き延びるためで、自分自身の中に湧いてくるものに形を与えていると、なぜだか生き続けることができる。だからこそ、もし評価も報酬も0だったとしても、おかげで生きられたというだけで収支はプラスで、というかだいぶ儲かってしまっていて、後はもう何も考えなくていい、という話だ。
 僕が心を揺さぶられたのは、作品の質について考えない、という部分だ やっぱりプロになると、作品の質を上げなければいけないとか、制作のスピードを上げなければいけないとか、他の人ができないことができなければいけないとか、そういう、べき論がガンガン湧いてきて嫌になっている部分はあった。
 けれども、そもそも作ることの根本は生きるためなんだから、質のことは考えずただ作り続けていたら、質より量という言葉のとおり、だんだんと上手くもなるだろう。それを妙に気張って、量が増えるペースより先に質を上げようとすれば無理が来てやる気がなくなってしまう。ただ流れに乗ること、という坂口恭平の教えは、今の僕にはめちゃくちゃしっくりくる。
 欠点を直そうとしない、というのも良かった。坂口恭平は欠点を、人間にある隙間、と読み替える。そしてその隙間こそ、他の人があなたを助けることができるスペースになる。そうやって人が助け合えば、確かにみんな長所ばっかり発揮して、ということは無理に嫌なことをする人もどんどん減っていって、幸福の総量は増えるわけだ。
 掃除の話も良かったな。掃除をしているとなぜか精神が安定してくるとか、植物を育てるのは心の健康によく効くとか、坂口恭平が実際にやってみて効果があったことを短い言葉でどんどんと教えてくれるので、本当にお得な本になっている。坂口さん、どうもありがとうございました。


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