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[まちあるき話]路上の園芸コンテスト

 日本の庚申信仰発祥の地といわれる青面金剛童子を祀る四天王寺庚申堂。そこに繋がる庚申街道、あびこ筋の一本西の筋を「西田辺」あたりから北上する。すっかり日の伸びた夕方、右へ左へプラプラと脇道を行くと、今も残る長家に出会える。和風、洋風、ステンドグラスに、バルコニー、前庭のあるのやら長家がこんなに多種多様とは知らなかった。昭和に開発され、戦火をのがれたモダーンな建築物。
 それに花を添えるは、路上の本当の花々。千両、万両、百合、紫陽花。アロエ、パンジー、ヒイラギ、バラにアンスリウムと名前の知っているものから知らないものまで、多彩で盛り沢山。びっくりするような大きな花や、元気に伸び出しているツル性の植物は、もう夏の光を予感させている。

 ゆとりのある路地には、競い合うように手入れされた緑が並ぶ。その風景は、さながら園芸コンテストの様相。うろうろしていると合図もないのに、あちらこちらの角からおばちゃん達は、それぞれにお気に入りのジョウロを手にして現れ、このコンテストにエントリーする。一日の終わり、ちょうど水やりの時間帯なのだろう。昭和の頃から変わらない風景、時期になれば順々に咲く花。勝敗は決まらない、終らない園芸コンテスト。永遠に続く循環、路地ではジョウロのバトンで世代を超えて繋がる。

 学校帰りの黄色い帽子の小学生は子犬のようにじゃれあい、おばあちゃんは犬を抱いて迎える。噂話のお母さん達、ちょっとのつもりで止まった自転車は、落ち着きが悪い位置のまま。赤信号で渉りだすおじいさん、それを注意する若いお巡りさんは、言葉使いに困る。自転車を押しているおっちゃんは、西日に照らされる壁のチラシを、なぜか長い間眺めている。

 長家を探して西に向うと、終いかけの商店街。黄昏時、迷子の気分になり、また庚申街道にもどると「昭和町」。そこには全国で初めて登録文化財に登録された「寺西家阿倍野長屋」という長家。丁寧に改修された、昭和の香り漂うこの長家では飲食店が入り、住居とは違う表情をみせている。 
 黄昏(たそがれ)時は誰彼(たれぞかれ)時、「誰そ、彼」「そこにいるのは誰だろう?」と、何もかもが一旦不明瞭になる時。はじめての場所なのに、懐かしい昭和の風景。ますます、帰る場所を探している迷子の気分になった。

月刊誌「大阪人」/2010年8月号掲載
昭和町みて歩き
イラストレーション&文⚫︎中田弘司

発行:大阪都市工学情報センター




寺西家阿倍野長屋
戦前の昭和7年に建てられた、木造2階建て瓦葺入母屋造の四軒長屋建築。


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