予期せぬ家業へのリターン、その時あなたならどうする?

こんにちは。KM Pacific Investments Inc.の枡田耕治です。本記事をお読みくださりありがとうございます。

時に、社会人になってからの家業へのリターンは居心地悪いものであるかも知れません。特にそれが自主的ではない、予期しない場合であれば特に。ご家族へのご不幸などで家業に呼び戻され経営を握る事になるのは、既存の社員との関係や、すでに出来上がっている社内文化などの面でも水と油であることもあるかも知れません。そして、家族へのご不幸で戻るという事はリーダーシップが欠損しており、聞くことも出来ない状況です。ましてや、私の場合の様に、先代との関係が悪く家業から追い出された(出て行った)場合には、人間関係がスムーズにいかないかも知れません。じゃあこの様な場合、どうするべきなのでしょうか?

一番大事なのは、1)家業のエッセンスを再度理解する事だと思います。そして、2)信頼出来る人材の見極めと、3)ご自分の姿勢だと思います。結論的にはご自分の家業ですので、認めたくないかも知れませんが家業文化はあなたの身に染み込んでいると思います。

家業のエッセンス

家業のエッセンスとはなにか?それは家業文化、歴史、価値観や価値提案など企業が存続していく上での目に見えない差別化項目です。なにがこの会社をこの会社にしているのか?独自性を理解する事です。これは家業のコアを見つめる事ですので、表面的な現時点での事業内容や業績では有りません。創業者の設立の意図、社歴や重んじられる文化や生き方など。これらは自ら家業と距離を置いていた場合には、再度理解するには時間がかかるかも知れません。ご自分の家業を見るレンズも、家族との以前の関係から色々な思いがこみ上がり決してクリアではないかも知れません。

しかし、戻って来たのであれば、いつまでも過去を引きずるのはリーダーとしての意識が欠けていると思います。特に一生懸命働いてくれている社員や関係者の方々に失礼だと私は思います。社員とその家族を生かすも殺すも社長の器にかかっている訳ですから。ですから、家業の基本を再度勉強し、社員やご家族を含めた関係者に話を聞く。リーダーの心が同じ方向に向いていなければ、企業として前途多難なのは申し上げるまでもないと思います。

ただし、このプロセスを通じて本当に自分の考えと異なっていたり、家業の根本的な考えに将来性がないと判断した場合には、関係者を説得しながらご自分の価値観を注入するか、社員の転職先まで責任を持った上で企業を畳むかになると思います。もちろんこれらは極論になりますので、その間でも選択肢はいくつもあります。しかし、経営者として家業の継続には事業面だけではなく、人間模様が深く関わっているので一筋縄ではいかないというのが現状です。

信頼出来る人材の見極め

経営を行う上でも、一人で全てを全うするのは不可能な事ですし、企業の効率的資産の活用法としても生産性が低すぎます。よって、経営者には人望が必要であると同時に、頼れる人材を探す事だと思っています。そしてこの人材は経営者の「イエスマン」ではなく、助言者であり、問題指摘者でもあり、時には外交官として社内統一に一肌脱いでくれる人である必要があります。ですから、経営者を熟知するだけでなく、経営者ご自身も自らを裸に出来る相手である必要があります。

これは実際、口に出す以上に大変な事で、家業の場合にはプライベートな面も曝け出す必要が出て来ると思います。しかし、ご自分の参謀を見つけるとはそういう事だと思います。うまく行っている時の参謀は誰でも良いと思います。しかし、参謀(信頼できる方々)の価値が見出されるのは、事業そしてご自分が一番苦しい時です。ですから、参謀は決して仲の良い人である必要はありません。相談相手は決して社内の人でなくても良いと私は個人的には思っています。しかし、会社の中洲になる財務的情報なども開示する必要性が出て来るかも知れませんので、そんな時どうするかという事は考えておく必要があると思います。よって、相談相手を選ぶ上でのポイントは正直な意見を言い合い、相手からの意見を聞き入れられるかです。そして、その意見が家業の成長(路線修正)に直結している事です。短期的苦しみを経ても明るい将来があるのであれば(家業にとって、社員とその家族にとっても)、私は取り組む価値のある仕事だと考えます。

ご自分の姿勢

このプロセスで最も重要なのが、上でも既に申し上げた様に、経営者ご自身の姿勢です。ご自分が息子である(よって家業財産は自分が継ぐべきであった)というエゴや、親との喧嘩に「負けた」者という考えは一切捨てるべきです。結局は家業も企業の一環であり、企業の最も重要なものは社員という資産です。前回すでに一般企業と家業の差についてはお話ししましたのでここでは省略しますが、社員がいるからこそ会社が回り、創設者のご家族の生活や資産が守られている訳です。そして、社長(家業長)として自らの家族とも思う社員やその家族の生活や将来を守るのは、宿命であり絶対に手放してはいけない義務です。

ですから、経営者からの感謝という姿勢や社員と志を共にする一心共同体という考えは古臭い様に思われますが、家業の場合には、そして新経営者にとってはとても貴重な「資産」だと私は常に思っています。更に私は社員からも学ぶ姿勢を絶やす事なく、常にオープンマインドでいる事はとても大切な事だと考えます。社長であっても、結局は一人の人間です。考えるキャパも一人分しかありません。しかし、社員の人数分だけ、考えるキャパは存在し、アイディアもそれだけ豊富に存在する訳です。ですから、この知の宝庫をうまく使わない手はないと思います。

そしてこの様な姿勢こそが、オープンで意見交換を可能にする会社環境を構築すると思います。考えの交流から真相が掴め、団結心が生まれます。そして社員からも信頼を受ける事になり、新経営者であっても助けてくれる大きな応援団になってくれると確信しています。

もうお気付きだと思いますが、私の発言は常に50年や100年先を見据えた長期視野を基本としています。ですから冒頭でも申し上げた様に、直近の特効薬についてはお話ししていません。私が考えるところ、経営者の使命とは長期間における企業(家業)の繁栄と存続です。短期的特効薬については、各専門家(損出が多ければ財務担当、営業(経営)効率が悪ければ営業や総務担当)に委ねたり、その人達の経験と意見をフルに発揮出来る環境を整える事で多くのハードルはクリア可能になります。もし、本当に不可能な場合には、ご連絡下さい。一緒に袖まくって答えを出しましょう!

ここまで来れば、先に申し上げた会社思想の変更に対しても(本当にそれが必要であればの場合ですが)賛同してもらえるのではないでしょうか?スポーツの試合を見ていても度々思いますが、団結したグループは技術的レベルが多少衰えていても、勢いは凄まじく、手強い相手になります。そしてそのシナジーを生かすも無駄にするも、やはりそれは経営者の手にかかっていると思います。



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著書「家業を継げなかった3代目、継がなかった3代目」

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