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短編 嫉妬

2人で晩御飯を食べたあとは、京都駅まで、2人でよく歩いていた。
俺の帰るのが寂しいっていう気持ちと、少しでも長く君といたい気持ちに、彼女は付き合ってくれた。

「私の剣道の先輩にさぁ」

彼女は昔、剣道をやっていた。その時の先輩にすごい憧れを持っていた。その人のおかげで今、この子がいる。彼女の強さの元となった人。

「ねえ。なんでその人の話になったり剣道の話をすると手を握る力強くなるん笑?」

気づけば、強く握ってた。母親の手を決して離したくない子供のように。

「多分嫉妬してるんやと思う。」

「嫉妬?」

「うん。その人のおかげなんやなっていう感謝もあるけど、昔の君を知ってるのはなんというか、羨ましいってのがあるかな。」

情けないなぁ。そんな小さなことに嫉妬してと内心思ってるのかなとか思ってたら彼女は手を握るから、腕に引っ付いて歩き出す。基本歩きにくいことを彼女はしない。

「どうした?」

「なんとなく。」

その後に

「今の私を1番知ってるのは君だよ。」

「そうやなー。そうなら嬉しいかな。」

その日のその手の温もりも、歩きにくい中引っ付いてきた彼女の可愛らしさも、その後に沢山見て、聞いて、体験する全ても自分が1番近くで味わえる。
ただその時間もうまく、長く続かなかった。

ただ、その子がこれからどんな人と付き合おうとも、俺しか知らないことが沢山ある。羨ましいだろーって。

でも思うな。君のことを1番知ってる人であり続けたかったって。

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