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リクエスト小説 鏡の中のワタシの友達 1

ワタシが、もう1人の私を認識したのは、物心ついた時。
お母さんはそれよりも前から、もう1人の私のことを、ワタシが気になっていたことを知っていた。

今日もワタシは私に挨拶をした。

「おはようかれん。今日も元気?」

目の前の私はニコニコして何も返さない。

返ってこないんだって気づいたのは小学校に入ってからだった。

なんで返事をしてくれないの?とお母さんに聞いたら答えてくれた。


「カレン。鏡はね。あなたをうつしてるのであってもう1人のあなたが鏡の中にいるわけじゃないのよ。」

信じられなかったけど、でも今はわかっていながらも話しかける。いつか答えてくれるんじゃないかという淡い期待を持ちながら。

そしてあの日、願いは鏡の私に届いた。


昨日、3月17日に、私、織部かれんは小学校を卒業しました。卒業式は例のウィルスで在校生とは出会えず、お母さんたちは別室でリモートで私たちが名前を呼ばれるのを見てくれていた。

私は涙こそ流さなかったけど、1番仲の良かったかりんちゃんは声を出してわんわん泣いていた。
かりんちゃんは今日の卒業式の後すぐにお引っ越しをするから会えるのが最後になる。
会った時は名前が似てるというところに2人で嬉しくなってお友達になれた。

私は悲しい、寂しいとは思ったけど、泣かなかった。そういえば最後に泣いたのいつだろう。

(最後に泣いたの、お父さんが天国に行っちゃった時かな。4年生の頃だったけど、お父さん、天国で楽しくやってるかな。)

あるかもわからない天国に少し期待して私は校長先生から卒業証書を受け取った。


今日から春休み。

私も4月から中学生。そんなことを考えて朝起きて歯を磨いて、お母さんのご飯を食べて、そして部屋でLINEでかりんちゃんにいっぱいいっぱいありがとうを送った。

少し寂しい。そう思って、部屋の鏡の前に座ってみた。後ろには4月から着る新品の制服がそこにある。鏡のカレンに話しかける。

「カレン、私ね、かりんちゃんに会えなくなるの寂しいの。寂しいって、かりんちゃんに言ってもいいのかな。かりんちゃんもっともっと寂しくなるよね。私どうしたらいいのかな。」

『かれん、気になるなら言っていいと思うけど』

「え?」

私は鏡を見た。そこには私がいる。でもそこにいるのは驚いた私の顔じゃなくて、ニコニコこっちを見て笑ってる私だった。

『やっと話せたねかれん。初めましてではないわね。ワタシはカレンよ。いつも話しかけてくれてたわね。今回やっとあなたに答えられたわ。あなたは強くなれるわよ。あなたはワタシで、ワタシはあなただもの。』

私は何が何だかわからず、すぐにお母さんを呼ぼうとしたのに大きな声が出せなかった。そして私はすごく嬉しくなっていた。
やっと話せた。やっと届いた。やっと聞こえた。
カレンが私を見てくれている。

「カレン、カレンなのね?私自分の気持ちを素直に伝えていいの??」

『まだ少し信じられてないのね。そうよ。私は世界で1番美しい人を告げることはしないし、鏡の中にあるお城に連れても行かない。ワタシが出来るのはかれんに嘘をつかないことだけよ。』

私は小さな手で拳を作ってぐっと握った。気持ちを伝える。でもどうやったらいいの。相手が悲しいかもしれないよ。私が我慢したら終わるかもしれないのに。

『とにかくこっちにこれば?』


そう言われた時私はもう手を伸ばしていた。カレンもこちらに手を伸ばす。

鏡の中の私とワタシが重なる。

そして私は鏡の中に入ったのだった。

私はこれから、2年前に置いてきたものを取りに行く。もう1人のワタシと一緒に。

第二話に続く。

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